マジェスティーSにRPMのフォークを取り付け
当社では珍しく、スクーターのサスペンションを手がけています。
フロントはRPMのフォークを選択し、ブレーキキャリパーはブレンボです。
届いたばかりのRPMのフォークはかなり動きがしぶく、このまま車体に組み込んでも楽しい車両にはならないと判断し、全分解することにしました。依頼を頂いたお店の担当者の方とも、状態によっては内部を確認してから組み込んで欲しいとの要望もあり、中を覗きたい私の個人的欲望と相まって作業に入りました。
一つ一つの部品の精度は悪くなさそうです。インナーチューブの表面処理は少々雑な気もしますが、ヨーロッパの某インナーチューブと比較しても同等なので、価格からすれば十分な仕上がりです。ピストンのデザインは何の見識も工夫も感じられない、ただ穴が開いてるだけといった風ですが、発生させたい減衰力はそれほど強力でないため、あまりこだわる必要もないのかも知れません。
減衰調整のニードル形状はテーパーのついた針ではなく、先端が球形の珍しい品です。変化率を大きくすることが目的にかと推察しましたが、実際にダイアルを動かすと、それほど大きな変化は感じられませんでした。
スプリングは二段バネを使い、特段硬くも柔らかくもなさそうです。スプリングレートは不明です。オイルは一般に倒立用と呼ばれる粘度で#5を使いましたが、丁度良い動きを出せました。油面は純正が80mmのところ90mmに設定しました。
これは殆どのバネに当てはまりますが、製造過程でつく汚れが拭き取られていません。拭き取ることがどれほど良い影響を与えるかは不明ですが、私どもは新品のバネを使う場合でも必ず汚れを拭き取り、圧搾空気で細かい汚れを吹き飛ばします。
インナーチューブはφ35で、軽く研磨し均しグリスをFGの販売する高価な品にし、ダストシールに少し加工を施して滑らかに動くよう心がけました。カートリッジの内部も丁寧に確認を進め、問題がないかを検証しながら組み作業を行ない、実質は当社の最上級オーバーホール「プレミアム・ライン」と同手順でした。
これらの組み作業で完成したフロントフォークは、狙い通りの動きを実現できました。自分で組んだのですが、手押しでストロークさせた瞬間、ついつい「ニヤ」っとするほど良い動きをしました。
リアにはFGの最高峰FFXを取り付けます。この件も追加で当ブログを編集しご覧いただけるようにしますので、興味を持たられた方は期待してお待ちください。
4/24 追記
リアのFGも完成しました。FFXはセットが決まると驚く程の滑らかな作動を実現します。レバー比を測定し、タイア接地面が求めるバネ定数を仮定し作り込んで行きます。今回は90Nmのスプリングを選びました。好みや使い方にもよりますが、かなり面白い選択だったと思います。好みにより80Nm辺りをプリロード多めでも楽しくなりそうな感触はありました。
減衰の設定は一度仮組みし動作させてみたのですが、柔らかくし過ぎたために一度分解してシムを組み直しました。これで狙い所に近い印象を持ったために実走セッティングに進みました。イニシャルとスプリングレートは良さそうだったので、少々考えダイアルを変更を2〜3ど繰り返して、想定よりも良いセットアップを発見しました。
この「想定よりも良いセットアップ」を探すためにいつも苦労しますが、ベースセットを出すための「エントリーPKG」は「外れを引かない」セッティングだとすれば、今回のセットアップは当社の名前の通り「プログレッシブPKG」次の一手といった感じです。自分でも驚く程楽しい乗り味になり、早くお客様に乗って頂きたいと思いました。
今回はフロントフォークの新品バラシのプレミアムラインオーバーホールとリアのFGを仕様変更、組み直しやセットアップで約50万円の内容となりました。