Ferrari GTC4 LussoのショックO/H BWI
11月、BWIダンパーが一気に動き出した月
11月はフェラーリ、ランボルギーニを中心に BWI 製ダンパーのオーバーホール依頼が一気に増え、工場内は終日マグネライドの分解と洗浄に追われていました。
ようやく順次作業を終え、出荷のフェーズに入りつつあるところです。
その中でも象徴的だったのが、フェラーリ GTC4 Lusso のショックアブソーバーでした。これまで扱ってきた BWI と比べても内部構造に明確な違いがあり、「新しい世代のマグネライド」に触れた感覚があります。
GTC4 Lusso に見る“新世代”BWI の特徴
GTC4 Lusso のダンパーを分解してまず目を引いたのは、伸び切り側の衝撃吸収部の仕様変更でした。
従来の BWI では、フルストローク時のショックを受け止めるバンプ側にかなり硬いラバー(ゴム)を用いることが一般的でしたが、この個体ではそこがコイルスプリングに置き換わっていました。

伸び切り終端で「コツン」と当たる領域を、ラバーではなくスプリングで受け止める構成にすることで、
- 大入力時の衝撃をより滑らかにいなす
- ダンパーの応答性との整合性を取りやすくする
といった狙いが感じられます。
また、フェラーリとランボルギーニでは組み立ての思想や順序に微妙な違いがあるのが常でしたが、今回の GTC4 Lusso は、アヴェンタドールの BWI に近い構成が随所に見られました。
同じ BWI 製でも、メーカー別・年代別で“味付け”が違うのがこの仕事の面白いところでもあり、難しいところでもあります。
磁性流体が“個体に近い”状態になったダンパー
今回の GTC4 Lusso のダンパーは、オイル漏れの程度もかなり深刻でした。
分解して内部の磁性流体を確認すると、本来はサラサラとした液体であるべきオイルが、ほとんど粘性を失い「個体に近い状態」になっていました。

マグネライドダンパーは、電磁コイルの磁場によってオイル中の磁性体を整列させ、瞬時に減衰力を変化させる仕組みです。
その“媒体”である磁性流体が、
- 粘度を失い
- 流動性も乏しくなり
- 実質的にダンパーとして機能しない
という状態になっていたわけですから、車両がエラーを検知しても不思議ではありません。
実際、ここまで劣化した磁性流体では、どれだけコイルに通電してマップを切り替えても、減衰力はほぼ生まれません。見た目には「ただ動いているだけの筒」になってしまいます。
この段階に至ると、O/H は単なるシール交換に留まらず、内部の清掃と磁性流体の入れ替えが必須になります。
BWI の O/H が“難しい作業”とされる理由
BWI のマグネライドダンパーのオーバーホールは、一般的な油圧ダンパーと比べてもかなり大掛かりな作業になります。
- 分解前の状態確認
- ガスの処理
- 電子制御部の取り扱い
- 組み立て時のシーリングとトルク管理
- そして磁性流体専用の洗浄・充填工程
いずれも一つひとつの手順を外すと、大きなトラブルにつながる可能性があります。
初めて BWI を分解した頃は、正直に言えば一本の作業に相当な時間を要しました。構造の理解だけでなく、「どうやって壊さずに分解し、どうやって元の性能まで戻すか」を探る段階からのスタートだったからです。
現在は、
- 専用の治具・工具
- 手順書(作業プロセスの標準化)
- 洗浄・磁性流体処理の設備
これらを揃えたことで、当初とは比較にならないほど短時間で、かつ安定したクオリティで作業を完了できるようになりました。
それでも「簡単な仕事」になったわけではなく、あくまで“難しい作業を、難しいなりに安定させた”という感覚に近いのが正直なところです。

BWI に特化した作業環境という、少し特殊な立ち位置
BWI のマグネライドに特化した作業環境をここまで整えている工場は、日本国内に限らず、世界的に見てもそれほど多くはないだろうと感じています。
従来のダンパーであれば、多くのサスペンション専門店が対応可能ですが、磁性流体+電子制御という組み合わせになると、一気にハードルが上がります。
- 構造理解と分解・組立技術
- 磁性流体という“特殊なオイル”の扱い
- 電子制御部・配線系の取り扱いと検査
この三つを同時にクリアしないと、安心して O/H を引き受けることができません。
だからこそ、フェラーリやランボルギーニのオーナー様・ショップ様が「交換一択」ではなく、「O/H という選択肢」を持てるように、ここ数年は地道に準備と改良を続けてきました。
今回の GTC4 Lusso を含む 11月の案件ラッシュは、その成果を少し実感できた月でもありました。
BWI ダンパーに関するご相談について
BWI のマグネライドショックのオーバーホールや、可否の判断でお困りの場合は、一度ご相談ください。
ご依頼の流れとしては、
- 実際の O/H・価格のご相談 → お付き合いのある修理工場・販売店様経由
- 技術的な概略や「対応可能かどうか」のご相談 → エンドユーザー様からの直接お問い合わせも可
という形を取らせていただいております。
お問い合わせ先は下記の通りです。
電話番号:090-3316-5306
LINE ID:@llv7594i
問い合わせページ:https://sgfacendo.com/contact/
BWI に特化した作業環境を有している工場は、日本に留まらず世界的に見ても、決して多くはありません。
フェラーリ、ランボルギーニを問わず、同ショックの O/H でお困りの際には、お気軽にご相談ください。
