電子制御は「100点を引き出す」――120点はどうやって作る?

電子制御を考えるときの二つの問い

電子制御は”アクティブ・ノイズ・キャンセイリング”、車両やショックの質を高めるのは”コンサートホールのような雑音のない環境を作る”。

結論から言えば、電子制御は「今そこにある性能」を、誰にでも、どこでも、できるだけ安定して引き出すための道具です。
それは再現性を高めるための“ソフトウェア”であって、マシンの物理的な限界値そのものを押し上げる存在ではありません。

サスペンションや車体設計は、その土台にある「物理」の側です。
こちらは、タイヤが使えるグリップの総量や、安心して踏んでいける領域そのものを、じわりと広げていく仕事です。
電子制御が「いまの100点を誰でも出せるようにする」なら、足まわりは「そもそもその100点を120点にしてしまう」側だと言って良いでしょう。

“後追い制御”から“予兆制御”へ

電子制御の歴史をざっくり振り返ると、最初は“後追い”から始まりました。
ABSも、初期のトラクションコントロールも、本質は「滑ってから止める」仕組みです。
挙動が乱れてから介入するので、効き方もやや唐突で、ライダーからすれば「助けてはくれるが、不自然さも残る」ものでした。

そこに6軸IMUが入り、現在は“予兆”を読む方向に変わっています。
車体のロール・ピッチ・ヨー、加速度を高い頻度で監視し、「滑り始める数ミリ秒前」に、じわっと出力やブレーキを調整してくれる。
人間の感覚からすると、ほとんどリアルタイムどころか、先回りして守ってくれているように感じられるはずです。

さらにこれからは、カメラやレーダーと組み合わさった“視覚を持つ制御”が主流になっていきます。
路面のうねりやギャップ、コーナーの先の状況を目で見て、車体が実際に動き出す前から準備を始める。
四輪の世界ではすでに実用段階に来ていますし、二輪も時間差で同じ方向へ進むでしょう。

ライディングの“ゲーム化”と、デジタルの断崖

その進歩は素晴らしい一方で、静かに進んでいる“ゲーム化”の側面もあります。
スライドコントロール、コーナリングABS、ウイリーコントロール……。
プロライダーの技術を、ある程度まで一般ライダーに開放してくれるという意味で、これは確かに福音です。

実際、制御が上手く働いている時、挙動は驚くほど滑らかで、ノイズが消えたように感じられます。
しかし、その「クリーンさ」は、必ずしも“物理的に余裕があるから”生まれているとは限りません。

電子制御は、限界ギリギリまで状況を整えてくれますが、摩擦の器を超えた瞬間、その先には段差のような「断崖」が待っています。
アナログ時代のように、「少しずつ滑り始めるから、嫌な感じを察してペースを落とす」といった、前ぶれが薄くなっているのです。

これは、一定以上のペースで走る人にとっては、むしろリスクにもなり得ます。
気づかぬうちに、電子制御が“借金”を積み上げてしまい、最後の最後で一気に請求書が回ってくるようなイメージです。

四輪と二輪、電子制御の行き先

では、これからの電子制御はどこに向かうのか。
四輪はおそらく、自動運転へと一直線に進むでしょう。
人間を操縦から外し、「移動する部屋」としての完成度を上げていくのが主戦場になります。

対して二輪は、少し違う道筋を取るはずです。
“転ばないバイク”を目指しつつも、「操る楽しみ」はどうしても残さざるを得ない乗り物だからです。
IMUにカメラやミリ波レーダーが加わり、「絶対に転倒させない守護神」としての電子制御は、ますます強くなっていくでしょう。

それでも、公道にある砂利やオイル、突然の飛び出し、予測不能な要素を全てコントロールするのは、まだ先の話です。

電子制御にできること・できないこと

ここで一度、電子制御が「できること」と「できないこと」を整理してみます。

出力を絞る、ブレーキを分配する、スリップの手前で介入する。
これらはすべて「引き算の制御」です。
過剰な入力を削り、タイヤが今持っているグリップの範囲に、強引に押し戻してくれる。
ヒューマンエラーを吸収し、「いつ、どこで走っても100点の安定性に近づける」ための賢い仕組みです。

ただし、電子制御にはどうしてもできないことがある。
タイヤが路面とやり取りできる“総グリップ量”を増やすこと。
すでにオーバースピードになったマシンを、物理法則を無視して救い出すこと。
そもそも接地していないタイヤに、摩擦を発生させること。
ここは、どうあってもソフトウェアの守備範囲外です。

サスペンションが担う「物理の足し算」

そこで、サスペンション(ハードウェア)の出番になります。
良いショック、良いスプリングは、「制御が後から乱れを消す」前に、「乱れ自体を小さくする」仕事をします。
路面からの入力を適度にいなし、常にタイヤを路面に押しつけておくことで、結果として“使える摩擦円”の器を一回り大きくしてしまうのです。

こうして足まわりが整った車両では、電子制御が介入する回数そのものが減っていきます。
頻繁に火消しに回らなくて良くなれば、電子制御のリソースを「守るため」ではなく「前へ進むため」に使えるようになる。
電子制御と足まわりは、主役と脇役ではなく、お互いの仕事を軽くし合う“共同作業”にあると言っていいでしょう。

SGFとしてのスタンス:ローダウンもO/Hも同じ思想で

私はサスペンション屋として、ローダウンも、O/Hも、セッティングも、すべて同じ思想で見ています。
「とにかく下げれば良い」「とにかく硬くすればスポーツだ」とは一切考えていません。

ライダーの体格と用途に合わせて、前後の沈み方を揃え、タイヤの接地をきちんと確保し、そのうえで電子制御に余裕を渡してやる。
ローダウンであれば、LGNでもLTDでも、「楽に乗れるようにしながら、走りの質を落とさない」どころか、むしろ引き上げることを目標にしています。

O/Hにしても、単に漏れを止めて終わりではなく、内部の摩耗や経年変化を洗い出し、「本来の性能+α」に近づけるつもりで組み直しています。

電子制御がこれだけ進化した今だからこそ、足まわりの素性は、以前にも増して“決定打”になりつつあります。
どれほど高価なIMUやコンピューターを積んでも、タイヤが跳ねていては、制御が拾えるデータも荒れたものになる。
タイヤと路面の間にある数センチの世界を整えることが、結局は一番の安全装置であり、一番のチューニングでもあると、私は考えています。

電子制御の“魔法”と、サスペンションの“真理”を噛み合わせるために

ローダウンをしたい方も、今の電子制御サス付き車両を「もう一歩、自分のものにしたい」方も、あるいはシンプルなネイキッドをしっとり走らせたい方も。
まずは、ご自身の身長・体重・主な用途(街乗り/ツーリング/ワインディング/サーキット)を教えてください。

そこから逆算して、「下げた方が良いのか」「セッティングだけで済むのか」「O/Hのタイミングはいつか」といった地図を、一緒に描いていきます。

お問い合わせは、現在もフォームより、以下の“直接の手段”を推奨しています。

電話 090-3316-5306
LINE @llv7594i
メール sgf@sgfacendo.com
お問い合わせフォーム https://sgfacendo.com/contact/

電子制御という“魔法”と、サスペンションという“真理”。
その両方をきちんと噛み合わせたい方からのご相談を、お待ちしています。

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