世界でも希少:ポルトフィーノのBWIショックを再生する技術。韓国企業からも相談が来た理由
Ferrari Portofino|BWIショックO/H —— 構造理解とその難易度
ストーリー
フェラーリ・ポルトフィーノは、V8 GTとして日常性とパフォーマンスを高い次元で両立したモデルである。しかし、足回りに目を向けると“もっと希少で特殊な部品”が潜んでいる。
それが BWI(Beijing West Industries)製の磁性流体ダンパー、いわゆる**マグネライド(Magneride)**である。
現在、世界でこのダンパーのO/H(分解オーバーホール)を商業レベルで受けられる業者は極めて限られており、日本で業務として継続受注しているのは弊社のみのようだ。
実際、弊社へ韓国の大手サスペンション関連企業からも「O/Hの可否」について相談が来たことがあるほどで、技術のハードルの高さが伺える。
今回の記事は “概要編” としてポルトフィーノのサスペンション構造を整理し、
次の記事で、弊社がどのようにO/Hへ向き合い、どのような工程で再生しているのかを紹介していく。
(技術流出防止のため、詳細工程や寸法、専用治具類は開示しません。)

BWI製マグネライド|構造はシンプル、制御は極めて精密
1. ベース構造は「単筒ガス式」
ポルトフィーノのダンパーは、基本的にはシンプルなモノチューブ(単筒式)構造である。
- モノチューブ構造
- ガス加圧室を持ち、泡立ちを防止
ここまでは普通の高性能ダンパーと大きな違いはない。
だが、違いは“作動原理”にある。
2. 核心:磁性流体(MRフルード)+電磁コイルによる連続可変減衰
ダンパー内部には、**鉄粉を含む特殊なオイル(磁性流体)**が封入されている。
このオイルは 電磁コイルへの通電で粘度が瞬時に変化する。
- 通電なし → サラサラの液体、減衰力は低い
- 通電あり → 半固体状に変化、減衰力が急激に高まる
- 1/1000秒の応答で、4輪すべてを“連続可変”で制御
フェラーリが採用する **SCM-E(デュアルコイル式)**では、
コイルを2系統にして磁場応答を高速化。
GTカーとしての快適性とフェラーリらしい俊敏さを両立している。
つまり構造は単純だが、制御は非常に精密。
O/Hが難しいのは“電子制御 × 磁性流体 × モノチューブ”という特殊な組み合わせにある。

3. なぜO/Hが難しいのか?
① メーカーは分解整備を前提にしていない
フェラーリのサービスマニュアルにもO/H手順は存在しない。
対処は “アセンブリ交換” が前提。
② 磁性流体の取り扱いが特殊
通常のダンパーオイルとは粘性特性が大きく異なる。
- 気泡が残りやすい
- 真空引き工程が必須
- 専用のMRフルードが必要
- 粘度分布が不均一だと制御不良を起こす
③ コイル・配線を傷つけると即アウト
内部の電磁コイルはダンパーの“心臓部”。
ここを損傷すると新品交換が必要になる。
④ ガス封入圧・クリアランス管理がシビア
一般ダンパー以上に、
「ガス圧の精度」「シール類の選別」「ロッドの研磨精度」
など、全てが非常にタイト。
4. “世界でも希少”と言われる理由
- 欧州でも数社しかO/H対応がない
- 国内では当社以外ほぼ対応不可
- 技術確立のための研究量・治具製作量が大きい
- コイル断線のリスクを伴うため、失敗すると新品交換(数十万円~)
そのため、依頼が来ても受けない業者が多い。
BWI MRダンパーは、二輪のサスペンションを長年扱ってきた経験と治具製作スキルがなければ太刀打ちが難しい。
5. ポルトフィーノのサスペンション概要(ショック中心)
フロント:ダブルウィッシュボーン+BWI MRダンパー
- 長いストロークを活かした追従性
- ロール初期を制御する電子減衰
- リフター装備車は油圧アクチュエータ付き
リア:マルチリンク+BWI MRダンパー
- 快適性重視のマルチリンク
- 磁性流体ダンパーでロールを抑制
- 高負荷時の減衰増加が素早い
GTとしての快適性と、フェラーリらしい俊敏な回頭性を支えるのは“BWIの精密制御”に他ならない。
次回予告:O/H工程の“外観”を紹介
次の記事では、技術流出を避けつつ、
- どのような状態で届き
- どう分解に入り
- どんなトラブルが多く
- どう再生していくのか
といった “外観レベルの流れ” を紹介する。
内部寸法や工程の詳細は公表できないが、
“どの程度の作業を行うか”は十分伝わるはずだ。
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電話:090-3316-5306
LINE:@llv7594i
お問い合わせ:https://sgfacendo.com/contact/
ポルトフィーノ/フェラーリ全般のBWIショックO/Hについて
- 依頼は業者(ショップ・ディーラー)経由で受付
- 金額は個体差が非常に大きいため、取引のある業者様へ回答
- 納期や技術的な簡易説明はエンドユーザーからの直接問い合わせも対応可能
フェラーリの足回りでお困りの方は、一度ご相談ください。
BWI磁性流体ダンパーは“交換しかない”と思われがちですが、
適切な方法でO/Hすれば再び本来の性能を蘇らせることができます。
