その“万人向け”は、本当に貴方のためか? 新型CB1000F深層レビュー:メーカーの『責任』を解き、サスペンションに『間』を与えるエンジニアリング
序章:大メーカーが背負う「責任」という名の重り
編集者(以下、編):新保さん、今回のテーマは新型CB1000Fのローダウンですね。
このバイク、世間では「ホンダらしい完成度」「誰が乗っても乗りやすい優等生」と評価が高い一台です。
そんな「メーカーがバランスを取りきった最新モデル」に対し、いきなり足回りに手を入れることに躊躇はありませんでしたか?
新保(以下、新):躊躇というよりは、まず「敬意」を持って現状確認を行いました。
一言で言えば「さすが」です。素晴らしい仕上がりですよ。
以前、私は別の車種で「万人向け=どうしていいかわからないから中庸にした」と辛口な評価をしたことがありますが、このCB1000Fには当てはまりません。
むしろ逆です。ホンダのような大メーカーは、「一般ライダーが起こしうる『想定外』の事態」すらも、完璧に想定して設計しています。
編:「想定外を想定する」ですか?
新:ええ。例えば、本来の用途とは違う過積載や、推奨されない路面での走行、あるいはメンテナンス不足……。
そういった、エンジニアからすれば「やめてくれ」と言いたくなるような状況でも、車両が破綻して事故につながらないようにする。それが大メーカーが背負っている「責任(マージン)」です。
編:なるほど。その「責任」の厚みが、車両の信頼性になっているわけですね。
新:その通りです。しかし、その分厚い「責任」は、時として私たちスポーツライダーにとって「過剰な鎧」にもなり得ます。
今回、私が試乗で感じた「わずかな隙」や「リアの硬さ」は、まさにその安全マージン(鎧)の重さだったのです。

第1章:「平均値」の嘘と、可変機構の限界
新:ここで、設計における「平均値」と「調整」についての面白い話をしましょう。
1950年代、アメリカ空軍での実話です。当初、軍はパイロット4,000人の身体データを計測し、その「平均値」に合わせてコックピットを作りました。これで全員にフィットするはずだと。
編:結果は……「誰にも合わなかった」という有名なパラドックスですね?
新:はい。平均的な体型のパイロットなど一人もいませんでした。
そこで空軍とエンジニアが出した結論は、「平均値の人間を探す」のではなく**「機械の方を人間に合わせる」**ことでした。
シートをスライドさせ、ペダルの位置を変える。今の自動車やバイクで当たり前になっている「ポジション調整機構」は、この失敗から生まれたのです。
編:なるほど! バイクのサスペンションに「プリロードアジャスター(初期荷重調整)」がついているのも、その歴史の流れなんですね。
新:その通りです。メーカーも、平均値が万能ではないことを知っているからこそ、ある程度の「調整幅」を持たせています。
しかし、今回のCB1000Fのケースは、その「メーカーが用意した調整幅」すらも超えた領域の話なんです。
編:調整幅を超えた領域?
新:メーカーの用意した調整範囲は、あくまで「安全マージン(鎧)」の内側での話です。
「100kgのタンデム走行」という極端な高負荷を想定内に含めている以上、調整を最弱にしても、体重の軽いライダーや、一人乗りで純粋にワインディングを楽しみたい人にとっては、まだ「バネの初期荷重」が強すぎるのです。
第2章:鎧を脱ぎ捨て、個に最適化する
編:そこで今回の「ローダウン加工」の出番というわけですね。
単に車高を下げるだけでなく、メーカーの想定範囲(調整幅)の外側にある、「個人の最適解」を取りに行く作業だと。
新:はい。具体的には、リアショックを分解し、スプリングシートの形状を変更して**「プリロード(イニシャル)」を抜きました。**
これは、メーカーが「100kgタンデムの安全性」のために掛けていた保険(プレッシャー)を解約する作業です。
編:保険を解約する……言葉だけ聞くと怖いですが(笑)。
新:(笑)。もちろん、「使い方の限定」は必要ですよ。
「私は重量級のタンデムはしない」「このバイクで過酷な悪路は走らない」。
そうやってオーナー自身が用途を明確に切り分ける(トリミングする)ことで、初めて踏み込める領域があるんです。
編:その「踏み込んだ領域」の乗り味は、どう変わりましたか?
新:大きな変化を体感できました。
ノーマルでは「グッ」と踏ん張ってしまっていたギャップに対し、加工後はスッと素直にストロークして**「いなす」動きに変わりました。
「車高が下がって足つきが良い」という安心感以上に、「サスペンションが自分の体重に合わせて呼吸し始めた」という一体感。
これこそが、大メーカーの「万人向けの責任」から解放され、「貴方のためだけのマシン(ワンオンワン)」**になった証です。
終章:鋭敏さを捨て、「間(ま)」を愉しむ
上の動画は仕様変更後の前後ショックの動きです。
編:ローダウンが、単なる足つき改善ではなく、マシンの封印を解く行為だということがよく分かりました。
では新保さん、これでCB1000Fは完成形ですか?
新:いいえ。これはまだ「入り口」です。
今回の加工で「初期の動き(プリロード)」は適正化されましたが、実は**「バネそのものの硬さ(レート)」は純正の高い数値のまま**なんです。
編:あ、そうか! バネ自体は交換していないから、縮めば縮むほど強く反発する特性は変わっていない。
新:その通りです。だから、動き出しは良くても、ストロークの奥の方ではまだ少し「反発スピードが速い」、つまり情報の伝達が忙しない感覚が残っています。
もし貴方が、もっと優雅に、街乗りから峠道までを「快適」に走り抜けたいと願うなら……次の一手は**「バネレートを下げる(柔らかいバネに交換する)」**ことです。
編:柔らかくする……というと、フワフワして頼りなくなる心配はありませんか? スポーツ走行なら硬いほうが良いのでは?
新:そこが多くの人が陥る誤解です。
今の純正バネは、ある意味で「鋭敏すぎる」のです。路面の変化に対して即座に反応しすぎて、ライダーに常に緊張を強いている状態とも言えます。
バネレートを下げてサスペンションを大きくゆったり動かすこと。それは、マシンとライダーの対話に**「間(ま)」**を作ることなんです。
編:「間」ですか……?
新:ええ。サスペンションが深く沈み込むわずかな時間。その「間」があるからこそ、ライダーは次にくる挙動を予測でき、安心して身を委ねることができます。
不要な鋭敏さを捨て、この「間」を手に入れた時、CB1000Fは街中の段差も、峠道の切り返しも、すべてを心地よいリズムで繋いでいく「最高の相棒」へと進化します。
今回のローダウンは、その豊かな世界へ踏み出すための、重要な**「布石」**なんですよ。
次回は実際の試乗した印象を詳細に述べますので、お楽しみに(動画もアップ予定です)。
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