CB1000F:ワンオンワン・セッティング──メーカーの平均値から、「あなた専用の足まわり」へ
序章:大メーカーの「責任」と、個人の“本気”の間にあるもの
新型CB1000Fのノーマル車両に初めて跨った時、「ああ、さすがホンダだな」と素直に思いました。
価格帯を考えれば文句のつけようがない完成度で、いわゆる「万人向け」の安定感と安心感がしっかり確保されています。
ここで言う「万人向け」は、私が時々口にする
「どうしていいか分からないから真ん中に寄せた平均値」ではありません。
ホンダのような大メーカーは、むしろその逆をやっています。
本来の使い方だけでなく、
過積載、荒れた路面、メンテナンス不足、長期放置……。
エンジニアなら「それは想定外と言わせて欲しい」と言いたくなるような状況まで含め、
それでも破綻せず事故につながらないように「安全マージン=責任」を積み上げていく。
CB1000Fから感じる“硬さ”や“腰高感”の一部は、まさにその「責任」としての厚い鎧でもあります。
その鎧があるからこそ、どんなユーザーがどんな乗り方をしても、一定以上は安全に楽しめる。
その一方で、スポーツライダーにとっては「もう一歩踏み込みたいのに、そこで突っぱねられる」
そんな“わずかな隙”として現れてくるのも事実です。
今回のローダウンとセッティングは、その鎧を丸ごと脱ぎ捨てるのではなく、
オーナーの用途と体格を前提に「一部を丁寧に削っていく作業」と言っていいかもしれません。

第1章:「平均値」と“調整幅”の外側にある世界
サスペンションの話をする時、私がよく思い出すのが、アメリカ空軍の有名なエピソードです。
4,000人のパイロットを計測し、その平均値に合わせてコックピットを設計したところ——
「その平均値にぴったり合うパイロットは一人もいなかった」という話です。
そこで軍とエンジニアが行き着いた結論はシンプルでした。
「平均的な人間を探す」のではなく、「機械の側に調整機構を持たせる」。
シートをスライドさせ、ペダルやハンドルの位置を変えられるようにする。
今では当たり前になったこの考え方は、まさにそこから始まっています。
バイクのサスペンションにプリロードアジャスターや減衰調整が備わっているのも同じ発想です。
メーカーは、平均値が万能でないことを理解しているからこそ、
ある程度の「可変域=調整幅」を持たせています。
ただし——。
CB1000Fのような量産車において、その調整幅はあくまで
「大メーカーが背負うべき安全マージンの内側」に設けられています。
例えば100kg近いタンデムや過積載まで想定するなら、
体重68kg・一人乗り・スポーツ寄りという条件では、
プリロードを最弱にしてもなお「もう少し抜きたい」と感じる場面が出てきます。
実際にCB1000Fを試乗した印象として、
- 40〜60km/hの常用域では前後車高のバランスは良好
- ただし体重68kgの私にはリアの入りがやや小さく、「もっとストロークさせたい」
という感触がありました。
ここは「調整ダイヤルだけでは届かない領域」であり、
メーカーの責任の外側に、あえて一歩踏み出すかどうか——その判断が求められる部分です。
この動画では純正の足つきと、サスの沈み込みを確認できます。
第2章:ローダウン加工という「責任のトリミング」
今回CB1000Fには、まずLTDベースのローダウンを選択しました。
狙いは大きく二つです。
- シート高を約30mm下げ、取り回しと足つきの安心感を高めること
- 同時に、体重68kg前後・一人乗りを中心としたオーナーに合わせて、
リアサスペンションの「初期の硬さ」をやわらげること
そのために行ったのが、リアショックを分解し、
スプリングシートの形状を変更してプリロード(イニシャル)自体を減らすという手法です。
これは、ホンダが「100kgタンデムの安全性」を確保するために掛けていた保険を、
オーナーの使い方に合わせて一部だけ解約するようなものです。
もちろん、何でもかんでも削って良いわけではありません。
「この車両で長距離タンデムはしない」
「極端な悪路は走らない」
そういった前提をオーナーと共有したうえで、初めて成立するチューニングです。
加工後の乗り味は、数字以上に変わります。
- 段差やギャップでリアが「踏ん張りすぎていた」感触が、
スッと素直にいなしてくれる方向に変わる - 足つきが良くなったことで、Uターンや低速での不安が減り、
無意識にかかっていた緊張が抜ける
「車高が下がったから安心」という表層的な変化だけでなく、
サスペンションがライダーの体重に合わせてきちんと呼吸を始めることで、
CB1000Fが「万人のためのF」から「あなたのためのF」へと一歩近づく。
ローダウン加工の本質は、そのあたりにあります。
第3章:バネレートという“芯”をどこに置くか
今回のLTD加工では、リアのプリロード量を適正化し、
車高と初期作動のバランスを「一人乗り・スポーツ寄り」の領域に合わせました。
一方で、バネそのもののレート(硬さ)は純正値のままです。
つまり、
- 動き出しや初期の感触は大きく改善しても
- ストロークの奥での“反発の鋭さ”は、まだやや忙しい
という性格は残ります。
ここから先は、オーナーがどんな世界を求めるかによって、次の一手が変わります。
- ワインディングでの切り返しのキレや、高い荷重域での踏ん張りを重視するなら
→ 純正レートのまま、減衰と車高の追い込みで仕上げる - 街乗り〜ツーリング中心で、「もっとしっとりした乗り味」を求めるなら
→ バネレートを一段落とし、サスペンションの“間(ま)”を増やす
バネレートを下げると聞くと、「フワフワして頼りなくなるのでは」と心配される方もいますが、
実際には逆になる場合も少なくありません。
今のCB1000Fの純正バネは、よく言えば“鋭敏”、悪く言えば“少し忙しい”。
路面からの情報を一つ残らず拾いにいく代わりに、
ライダーにも常に構えを要求してきます。
そこで、あえてレートを落としてサスペンションを大きく・ゆったりと動かすようにすると、
そこにごく短い「間」が生まれます。
深く沈み込む瞬間の、ほんのわずかな時間差——。
その「間」があることで、ライダーは次の挙動を予測しやすくなり、
安心してマシンに身を預けられるようになるのです。
CB1000Fを「速く走らせるための道具」から、
街も峠も長く付き合える「相棒」に仕立てたいのなら、
その“間”づくりまで含めて設計する価値は十分にあると感じています。
この動画では仕様変更後の足つきと、沈み込みを確認できます。ノーマルの795mmから770mmに変更。フロントのバネも交換しています。”LTD2.5”仕様。
終章:CB1000Fとどう付き合うか——LTDという選択肢
ここまで書いてきたように、CB1000Fはノーマルのままでもよく出来た一台です。
シフターすら備えないシンプルな構成で、
140万円以下という価格を考えれば、完成度は驚くほど高い。
その「優等生ぶり」を崩す必要は、必ずしもありません。
ただ、
- 160〜170cm前後の体格で足つきに不安がある
- 一人乗り中心で、もっと“自分の体重に合った”動きをさせたい
- ワインディングでの安心感とリズムを、もう半歩だけ上げたい
そう感じる方にとっては、
LTDベースのローダウン+セッティングは、有力な選択肢になり得ます。
私たちの仕事は、メーカーの設計を否定することではありません。
ホンダが背負っている巨大な「責任としての鎧」を理解したうえで、
オーナーの体格・用途・価値観に合わせて、その鎧を少しだけ削り、
「個の最適解」に近づけていくことです。
CB1000Fのローダウンに限らず、
- どこまで下げるべきか
- 下げずにセッティングだけで済むのか
- バネレート変更やO/Hのタイミングはいつが良いか
といった相談も含めて、現物と乗り手の両方を見ながら、一台ごとに答えを出していきます。
CB1000Fを、“万人のためのF”から“あなたのためのF”へ。
その過程に興味があれば、まずは現在の体格と用途を教えてください。
お問い合わせは、下記の連絡先からお願いいたします。
電話 090-3316-5306
LINE @llv7594i
メール sgf@sgfacendo.com
お問い合わせフォーム https://sgfacendo.com/contact/
ローダウンでも、セッティングでも、O/Hでも。
CB1000Fと腰を据えて付き合いたい方からのご相談を、お待ちしています。
