サスペンションのガス圧力講座

“空気のバネ”を味方にする――ラリー用モノチューブショックのガス圧講座

ジャンプ着地で2 t近い衝撃が襲う WRC マシン。
その着地を「ドスン」ではなく「トンッ」と受け止める秘密は、オイルだけでなく 窒素ガス にもあります。ダンパー内部でオイルを押さえつけ、気泡(キャビテーション)を起こさせない“空気のバネ”――今日はその ガス圧 にまつわる “ちょうどいい塩梅” のお話です。

この話は弊社のサポートドライバーで、ラリーを走るナマステレーシングの金岡君との話を発展させました。


1.まずは“最低限”をクリアしよう

  • 10 bar(約150 psi)
    WRC クラスで「これを切ったら危ない」とされる実用下限。
    チームによっては 8 bar でも実験しますが、6 bar を下回ると一気に泡立ち→減衰ゼロ という報告も。
  • なぜ泡立つとダメなの?
    ピストンが高速で動くとオイルの圧力が一瞬だけ下がります。
    ガス圧で押さえていないと、その隙にオイルが“沸騰”して泡が発生。
    泡はつぶれるまで抵抗ゼロ。着地の一瞬にダンパーが「棒」になるわけです。

2.多くのラリーカーは 15 bar 前後で走る

路面 目安圧力 ねらい
グラベル(ガレ場) 10~15 bar キャビテーション防止を優先
ターマック(舗装) 15~20 bar 高速域の安定感&ロール抑制
耐久/特殊セクション ~24 bar 超ハイスピードでの“保険”

圧を上げるほど

  • 伸び側に“押し返す力”が増える(タイヤを路面へ押しつける)
  • 反面 初期フリクションが増えて細かい凹凸を拾いにくくなる

──まさに「トランポリンを固く張るか、柔らかく張るか」のバランス取りです。


3.低すぎるとどうなる?

  1. 泡立って減衰ロスト → ジャンプ後に着地が2回バウンド
  2. 内部部品に打痕 → 泡が潰れる衝撃でシムが痛む
  3. 熱ダレ加速 → オイルに空気が混ざるほど温度上昇も早い

「ショックが温まったら急にフワフワ」という症状は、まずガス圧を疑えと言われます。


4.高すぎても良いことばかりではない

  • シールへ常時プレッシャー → 摺動抵抗アップ+オイル漏れリスク
  • 硬いエアスプリング化 → 低速域の乗り心地がゴツゴツ
  • 伸び側で車高が少し上がり、バランスが崩れる ことも

「24 bar はレース専用、一般ラリーなら骨が軋む」とメカニックが冗談交じりに言う理由です。


5.メーカーで違う“ちょうど良さ”

  • ビルシュタイン系:15~20 bar が標準。がっしり系。
  • オーリンズ外部タンク式:タンク容量が効き、10~15 bar でも安定。
  • オーリンズ TTX:内部バランス構造のおかげで 6~8 bar という低圧運用が可能。
  • Moton:ストリート~クラブマン耐久用に 10 bar 設計。

同じ「モノチューブ」でも、シリンダー容量・タンク容量・ピストン径 が違えば必要圧も変わります。メーカー指定レンジ内で味付けするのが、まず失敗しないコツです。


まとめ ―“高すぎず低すぎず”を守るだけで別世界

  1. 10 bar を切らない(キャビテーション防止)
  2. 20 bar を超えたら副作用に注意(フリクション・乗り心地)
  3. 迷ったら メーカーの推奨レンジに合わせ、路面で±3 bar 調整

たったこれだけで、ジャンプ後の着地が “ドスン” から “トンッ” へ変わります。
高圧ガスは “空気のバネ” でもあり “刃物” でもあります。
窒素を扱うときは必ず専用ツールと保護具を。

好きなステージで、好きな圧力を探る―― それもラリーセッティングの楽しみの一つです。


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二輪車はもちろん、フェラーリ/ランボルギーニのショック O/H・ローダウンまで対応。
ラリー用モノチューブの“サポートドライバー向けセッティング”も承ります。
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