タイヤのグリップを生み出すもう一つの摩擦”ヒステリシス摩擦”の定義と実際

序論 これまでにタイヤについては何度か取り上げました。動画でも解説しておりますので、基本的な構造やグリップを生み出す根源はそれらを参考にして下さい。

1. ヒステリシス摩擦とは?

ヒステリシス摩擦は、タイヤのゴムが路面に接触する際のエネルギー損失に関わる摩擦の一種です。これは単純な「滑り」だけではなく、タイヤの変形とその回復が繰り返される過程で発生するエネルギー損失による摩擦力です。粘着摩擦がゴムと路面が強く結びつく「粘着力」に依存するのに対し、ヒステリシス摩擦はタイヤが路面の凹凸を踏みしめて、変形と元に戻る過程で発生します。特に高トルクや高速走行において重要な摩擦の要素です。

タイヤは点接触ではなく、変形して面接触となり、それが連続して発生することでヒステリシス摩擦が発生する。それは平面を手のひらを押し付け、バスケットボールを持つか如く引っ張り上げるようなものである。

2. ヒステリシスとタイヤの変形

ヒステリシスはタイヤゴムが**路面と接触する際にその表面の凹凸に応じて柔らかく変形し、反発するまでの過程における「エネルギーのロス」**と捉えられます。具体的には次のようにして力が生じます:

 

  • 変形過程:タイヤが路面に接触すると、路面の凹凸に応じてタイヤ表面が圧縮・変形します。
  • エネルギー損失:タイヤは変形から元に戻る過程で、変形によって蓄えたエネルギーがすべて戻されず、熱として失われる部分が生じます。この熱の発生がヒステリシス損失です。
  • 摩擦力としての現れ:エネルギー損失はタイヤを路面に押し付ける力と抵抗として現れ、これがヒステリシス摩擦に相当します。

3. タイヤ力学におけるヒステリシス摩擦の重要性

オンロード、特に高速走行や高トルクの車両において、ヒステリシス摩擦は粘着摩擦に次いで、あるいはそれ以上に重要です。粘着摩擦の影響が小さい場合(雨天や路面が不均一な場合など)でも、ヒステリシス摩擦がタイヤの摩擦を支えることが多く、路面への安定した接地を確保します。

例えば、レースなどでの高速走行中に発生する摩擦の多くはヒステリシス摩擦です。路面の小さな凹凸にタイヤが応答し続けることで生まれるこの摩擦が車体のグリップを支え、コーナリングやブレーキングの際に車両を安定させます。

4. オンロードとオフロードにおけるヒステリシス摩擦の違い

ヒステリシス摩擦は、オンロードとオフロードで異なる重要性を持ちます。

  • オンロード:舗装された滑らかな路面では、ヒステリシス摩擦が粘着摩擦と共に主要な摩擦力として働きます。特にコーナリングや急加速の際、ヒステリシス摩擦が安定性に大きく寄与し、グリップ力を発揮します。
  • オフロード:粘着摩擦が小さくなりやすい砂利や泥の路面では、ヒステリシス摩擦よりも「凝着摩擦」が大きな役割を担います。オフロード走行でヒステリシス摩擦が減る一方、路面がタイヤに食い込むことで支えとなる凝着摩擦がグリップの主体となるため、ヒステリシス摩擦の割合は少なくなります。

5. ヒステリシス摩擦とタイヤ選びの関係

ヒステリシス摩擦の発生はタイヤの材質や設計に大きく依存します。柔らかく弾性が高いゴム素材は、ヒステリシス摩擦が高まりやすく、凹凸に対して柔軟に反応するため、粘着摩擦が効きにくい場面でも安定したグリップを生み出します。一方で、硬いゴムではヒステリシス摩擦が小さく、グリップ力は減りますが、燃費が良く、耐摩耗性も高くなるといったメリットがあります。

結論

ヒステリシス摩擦はタイヤが路面に対し、粘着摩擦とは異なる方法でグリップ力を生み出す重要なメカニズムです。タイヤが繰り返し変形することでエネルギーが損失し、その損失が摩擦力となって現れ、安定した走行性能を支えます。特にオンロードでの高速走行やコーナリングにおいては、ヒステリシス摩擦がタイヤグリップの要素として重要な役割を果たします。

次回ではヒステリシス摩擦が生み出す課題、スタンディングウェーブ現象を取り上げます。

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