ダンパーテスター+自作制御装置で解明! 575MのZF Sachs 電子ショック、問題の正体を探る

ZF Sachs 電子制御ショック搭載のフェラーリ 575M 作業進捗

1. 作業の背景

フェラーリ 575M(Maranello)のサスペンションには、ZF Sachs 製の電子制御ショックが採用されています。昨年、オーバーホール(O/H)後に「動作がおかしい」という不具合報告とともに当社へ再入庫。その原因を探るため、機械部品の組み付け精度から電子制御部分の検証まで、あらゆる角度で調査を進めてきました。しかし電子制御ショックはメーカーによるマニュアルが非公開で、資料不足が大きな障壁となっていました。そんな中、ようやく必要な準備が整い、作業完了にめどが立つ状況になったので、進捗を共有いたします。


2. 準備のステップ

2.1. 機械部品の問題検証

まずはショック内部の組み方や順番にミスがないか再確認しました。当社では分解中の写真を大量に撮影し、データとして保管しています。その写真を参照し、疑わしい点がないか確認したうえで、実際に1本のショックのみ分解し目視点検を行いました。結果的に、機械的な組付けに大きな問題は見当たらず、O/H時の作業ミスはほぼ否定できそうです。

2.2. 電子制御の動作確認テスターを自作

最大の難関は「電子制御部分をどうやってテストするか」でした。マニュアルやデータが一般には出回っていないため、回路や電流の動作を推測し、破損リスクを避けるため類似品を入手してテストを重ねました。そのうえで本番の575Mショックを用いて実験し、信号を送ってみることでバルブが正しく動作するかどうかを検証しています。ここで注意が必要だったのは、誤った電圧や電流を流すと電子部品を簡単に壊してしまいかねない点です。結果的には想定通りの動きが見られ、問題なく進行できました。

短い動画ですが、電流変化によるダンパー動きを可視化しています。

2.3. ダンパーテスター用の治具製作

続いてはダンパーテスターへの取り付け治具の製作。車種ごとにショック形状や取り付けポイントが異なるため、一般的なテスターだけでは固定が難しいケースがあります。そこでフェラーリ 575Mのショックに合わせたアダプタを一品物として作り、テスターにかけてリニアな動きを計測可能にしました。この作業は時間と手間がかかりますが、実車テストだけでなく、数値的に減衰特性を把握するには不可欠な工程です。

2.4. 電制部分の可変テスト装置を制作

最後のステップとして、電子制御ショックが最弱から最強、そして中間域までどう変化するかを手軽に再現できる制御装置を自作。これを使えば、ショック内部の可変バルブの動きをボタン操作で切り替え、テスター上で各セッティングの減衰力を測定できます。これにより、後述する「不具合がショック自体の問題か、車体側のECU(制御系統)の問題か」を切り分けしやすくなります。


3. 今後のテストと見通し

上記の4つの準備が完了したことで、これからは

  • (1) 最弱モードから最強モードまで順番に制御を変化
  • (2) ダンパーテスターで減衰力カーブを測定
  • (3) その結果を数値化し、当初報告の「動作異常」に合致する挙動があるか検証

という流れで、原因追究の最終段階に入ります。もしダンパー本体に問題があれば明確に数値上の異常が示されるはずですし、逆に正常な結果が得られれば、車体側のECUや配線、センサー等の問題が疑われることになります。

3.1. 不具合原因の切り分け

オーナー様からの「O/H後に動作がおかしい」という報告について、ダンパー自体が問題なのか、それとも制御信号が正しく伝わっていないのかは整備現場で悩むポイントです。今回のように電子制御+油圧機構が融合したショックは特に複雑で、従来のオーバーホール技術だけではカバーしきれない領域があります。
しかし、テスター+可変制御装置を併用すれば、ショック単体での減衰特性を正確に把握できるため、故障切り分けが飛躍的に容易になりました。最終結果をきちんと計測し、お客様にレポートをお渡しする予定です。


4. まとめ

Ferrari 575 Maranello のZF Sachs電子制御ショックは、メーカー非公開の情報が多く解析が難航していましたが、ようやく各種治具や動作テスト装置が完成し、問題究明のゴールが見えてきました。
最弱~最強まで制御を変化させながらダンパーテスターにかけることで、ショック単体の性能を客観的に評価できるのは、大きな一歩です。この結果次第で、「本当にショック自体の不具合か、それとも車体側のECUや配線のエラーか」を判定できます。
今後の最終測定の進捗をまたご報告いたしますので、お楽しみに。


(CTA) お問い合わせ

もし同様の電子制御ショックの不調や「メーカーに頼んでも解決できなかった…」という事例でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

当社はサスペンションの専門知識を活かし、アダプタ製作や独自テスターなど 一台ごとに個別対応 できる体制を整えていきます。特に電子制御を含む高級車や希少モデルの足回り診断は、ぜひご相談ください。

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