万人向け、平均が間違いを生む ポジションの重要性
アメリカ空軍における「平均的パイロット」の逸話
CBR1000RR-Rで行ったポジション変更、その本質的な意味は、下の米軍で行なわれた調査を基に、考える切っ掛けを得たからです。
私が下の資料を知ったのは経営コンサルとさんに教わったからですが、これはバイク操作にそのまま当てはまると考え、より一層ライディングポジションに対する考えを深めるに至りました。少し長いのですが、どうぞご覧ください。
「平均的パイロット」は存在するのか?
この有名な逸話の背景には、1950年代の米空軍によるパイロットの人体測定調査があります。特にギルバート・S・ダニエルズ (Gilbert S. Daniels) 中尉が主導した研究で、彼は1952年に技術報告書「The ‘Average Man’?」(直訳:「『平均的な人間』?」)をまとめました。この報告書は、オハイオ州ライト・パターソン空軍基地の航空医学研究所(Aero Medical Laboratory)で行われた大規模測定に基づくもので、戦闘機コックピット設計における「平均的パイロット」という概念を疑問視する内容です。加えて、ダニエルズ中尉らは**「Anthropometry of Air Force Flying Personnel (1950)」**(空軍搭乗員の人体測定1950年版)と題した詳細な調査報告書も刊行しており(1954年公開)、当時の空軍パイロットの体格データの集大成となっています。
「The ‘Average Man’?」 技術ノート(WADC Technical Note 53-7)は特に有名で、この中でダニエルズ中尉は「平均的な人間を基準にした設計は幻想であり、複数の寸法を考慮する設計ではなおさら当てにならない」と指摘しています。つまり、この報告書こそが「平均的パイロットを基準にしたコックピット設計は誰にも合わなかった」という逸話の出典であり、一次資料と言えるものです。実際、近年の研究文献でもダニエルズ中尉の1952年の報告書が引用されており(DTIC資料番号: AD0010203)、彼の仕事が当該逸話の元になっていることは間違いありません。
Gilbert S. Danielsの調査内容と対象範囲
ダニエルズ中尉はハーバード大学で自然人類学を専攻し、人体計測の知識を買われて23歳で空軍に入隊しました。1940年代後半、ジェット機時代に突入した空軍では謎の事故多発に悩まされており、操縦席設計に用いるパイロット体格データを1920年代の古い平均値から更新する必要があると考えられていましたt。そこでダニエルズ中尉は全4063名の空軍パイロット(当時のほぼ全ての現役パイロットと新兵募集者)を対象に、身長・体重から指の長さや瞳孔間距離まで約140項目に及ぶ身体測定を実施しました。測定対象はほとんどが若い白人男性パイロットであり、当時の空軍人員の標準的な層と言えます。測定データには各項目の平均値や分布が得られましたが、ダニエルズ中尉はここで重要な問いを抱きました。それは「実際に何人のパイロットが“平均的”体型なのか?」という点です。
ダニエルズ中尉は、特に操縦席設計に重要と思われる10項目(例:身長、体重、胸囲、腕の長さ、脚の長さなど)を選び出し、それぞれの平均値±15%程度の範囲(データ範囲の中央30%に相当)を「平均的パイロットの条件」と定義しました。例えば平均身長が約5フィート9インチ(約175cm)であれば、その±約5%程度(おおむね170~180cm)が「平均的」と見なす範囲となります。この緩やかな条件にもかかわらず、10項目すべてで“平均的範囲”に収まったパイロットは一人もいませんでした。4063人を調べて該当者ゼロという結果に、ダニエルズ中尉自身も驚いたといいます。さらに3つの項目だけに絞って平均的条件に合致するか計算しても、全てが平均範囲内に入る者はわずか3.5%に過ぎなかったのです。こうした結果から彼が得た結論は明瞭で、「平均的パイロットなど存在しない。平均に合わせて設計されたコックピットは、実際には誰一人として完全には適合しない」というものでした。この「平均の神話」の打破こそが、ダニエルズ中尉の調査の核心です。
平均設計と事故増加の因果関係
この逸話では、「平均的体型を基準にした旧来のコックピット設計が事故多発を招いた」と語られますが、その因果関係については慎重な検証が必要です。事実、第二次大戦後の米空軍では**「パイロットエラー(操縦ミス)」とされる事故が異常に多発していました。1940年代末には最悪で1日に17機もの墜落事故が発生したとも伝えられています。事故機を調べても機械的な欠陥は見つからず、「なぜ優秀なパイロットが最新鋭機でこれほど事故を起こすのか?」という謎に直面していたのです。当初はジェット機の操縦難度の高さやパイロットの未熟さを疑う声もありましたが、あまりに事故が頻発するため空軍上層部はコックピット設計そのものに問題があるのではないかと考えるようになりました。とりわけ操縦席や計器配置がパイロットの体格に合っていない可能性**が指摘され、1920年代に策定された古い設計基準(平均値)が見直されることになったのです。
ダニエルズ中尉の調査結果は、この仮説を裏付けるものでした。彼の報告により、「平均的人体」を基準にしたコックピットが大多数のパイロットに不適切であることがデータで示されたのです。空軍はこの事実を重く受け止め、操縦席をはじめとする機体設計思想の転換を図りました。その結果どうなったか。空軍の公式記録によれば、1950年代初頭に10万飛行時間あたり約23件あった航空事故率(致死的な機体損壊事故)が、1960年代末には4件台にまで劇的に低下しています。この大幅な事故率の改善は、コックピットの人間工学的改良のみが原因ではなく、航空機の信頼性向上やパイロット訓練強化など複合的要因によるものです。しかし**「操縦席を平均値通りに作ったため誰にも合わず、操縦ミスが増えた」という因果関係**は、当時の空軍関係者が真摯に懸念し対策を講じたものであり、少なくとも一因ではあったと考えられます。ダニエルズ中尉の発見後、パイロットの身体に合わないコックピットが事故を誘発し得るという認識が広まり、航空機メーカーも人間工学に基づく安全設計を重視するようになったのです。
参考メモ:米空軍の人体計測と「平均的パイロット」
1950年代、米空軍ではパイロットの人体計測が大規模に行われ、Gilbert S. Daniels による技術ノート(WADC Technical Note 53-7 など)では「複数寸法を平均値で設計しても、実在の個人に完全一致しない」旨が報告されたと紹介されます。数千名規模のデータで「重要寸法を“平均的範囲”に全て収める人は稀」とされ、調整性を前提とした設計思想に影響した、という解釈が一般的です。
事故減少との直接因果は多因子的(機体信頼性・訓練・運用も寄与)と考えられますが、「平均設計の限界」は人間工学の重要な教訓としてしばしば引用されます。
※本稿では一次資料の厳密な検証は行っていません。
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