窒素ガスと、それ以外の代用に関して
なぜサスペンション用の高圧ガスに窒素ガスを用いるのか？
サスペンションシステムの性能を最大限に引き出すために、窒素ガスを使用することが非常に一般的です。サスペンションにおけるガス圧力をかける理由として、キャビテーション（液体中の気泡発生）や泡の発生を抑えることが挙げられますが、それだけでは窒素ガスが選ばれる理由を説明しきれません。ここでは、窒素ガスがサスペンションシステムに特に適している理由を掘り下げます。
1. キャビテーションと泡の発生を防ぐ
まず、以前の記事でも述べた通り、サスペンションにガス圧をかける主な目的は、キャビテーション（気泡の発生）を防ぐためです。サスペンション内部の油が低圧になると、液体が蒸発して泡が発生し、減衰力の不安定化を招きます。この問題を回避するため、ガスで圧力を高めて油を適切に押し込み、気泡の発生を防ぐことが必要です。
2. なぜ窒素ガスなのか？
では、なぜ窒素ガスがサスペンションシステムに選ばれているのでしょうか？他のガス、例えば酸素や圧縮空気ではなぜ不十分なのかについて説明します。
2.1. 窒素ガスの化学的安定性
窒素ガスは非常に安定した不活性ガスです。これは、酸素のように反応しやすくなく、システム内部のオイルやゴムシール、金属部品と反応しないため、長期間の使用に耐えることができます。特に酸素は、サスペンション内部で酸化反応を引き起こし、金属部品を錆びさせたり、オイルの劣化を促進したりする可能性があります。
2.2. 水分の混入を防ぐ効果
圧縮空気を使う場合、空気中に含まれる水分が問題となります。水分がサスペンション内部に入り込むと、金属部品の錆びやオイルの劣化、または膨張による性能低下の原因になります。窒素ガスは乾燥しているため、湿気を含まない点が大きな利点です。これにより、内部のコンポーネントの劣化を防ぎ、長期的な耐久性が向上します。
2.3. 膨張・収縮の抑制
窒素ガスは、温度の変化による膨張・収縮が比較的小さく、圧力変動が少ないため、安定した性能を維持しやすいです。圧縮空気や酸素を使用すると、温度変化により内部圧力が大きく変動し、サスペンションのフィーリングが不安定になる可能性があります。
3. 圧縮空気との違い
確かに、コンプレッサーで圧縮した空気をガスとして代用することも可能です。しかし、圧縮空気には上記で説明したような水分混入のリスクや、化学的な不安定性があるため、長期的にはサスペンションの寿命を縮める可能性があります。
特に、空気中の酸素が金属部品と反応して錆を発生させることや、水分がシステム内に取り込まれることは、避けたい問題です。この点で、窒素ガスを使用することは、サスペンション内部のコンポーネントを守り、より長期間にわたって安定した性能を発揮するために重要な要素となります。
4. 実際の運用とガス圧の違い
実際にサスペンションで窒素ガスを使用する場合、ガス圧は6Bar（約6気圧）から最大14Bar程度の範囲で調整されます。車両の重量やバネ定数、走行環境に応じて最適な圧力が変わりますが、一般的にガス圧を高く設定するとキャビテーションのリスクが低くなり、低めに設定すると乗り心地が向上します。このバランスを考慮しながら、車両や使用条件に合わせて調整することが重要です。
5. まとめ
窒素ガスは、その化学的な安定性、水分混入の防止、および膨張・収縮の少なさから、サスペンションシステムにおいて非常に重要な役割を果たしています。圧縮空気や酸素に比べ、窒素ガスはサスペンション内部の部品を長期間守り、安定した性能を提供します。結果として、サスペンションの寿命を延ばし、快適な乗り心地を確保するためには、窒素ガスの使用が最も適した選択肢であるといえるでしょう。
