車高が高いと発生する、深いバンク角での減少
深いバンク角で「地面に吸い寄せられる」感覚の正体
―― 高重心バイクで起こる“起き上がり力の減退”を解く
バンク角の確保や、セッティングを進めていくと車高が極端に上がることがあります。そのとき”フルバンクで車両が倒れ込み、地面に吸い寄せられるような、起き上がらない”感覚を持つことがあります。
これは本当に正しいのか?何か誤った感覚なのか?について考えていきます。
結論
その感覚は理にかなっています。
深いバンク角では、バイクを起こそうとする**復元モーメント(スタンドアップ方向の力)**が弱まり、重心が高いほどその“吸い寄せられるような倒れ込み”が強く出ます。
なぜそう感じるのか(肯定側の要因)
① 力の“通り道”がシビアになる
コーナリング中は、重力と遠心力の合成ベクトルが常にタイヤ接地点を通るように保たれています。
深いバンクではこのベクトルの角度がシビアになり、わずかなズレが内側への倒れ込みとして現れます。
重心が高いほど「テコの腕」が長くなり、倒れ方向のモーメントが強まり、結果として“地面に引き込まれる”感覚が増します。
② 前輪の「起き上がりトルク」が弱まる
深いバンクでは前輪の接地面形状とたわみ方向が変化し、自然に舵を戻すセルフアライニングトルクが弱くなります。
さらに、立ち上がりでスロットルを開けて前荷重が抜けると、前輪の復元力はほとんど働かなくなります。
③ 実効トレールの減少
大きなリーン角ではフロントジオメトリの「効き方」自体が変化します。
キャスター角とトレールの“実効値”が短くなり、直進方向へ戻す力(自己安定性)が弱まります。
その結果、内側へ転がり込む慣性のほうが勝ちやすくなるのです。
④ 高重心の副作用
高い重心は、路面段差やクリアランス確保には有利です。
しかし倒れ始めた瞬間の慣性モーメントが大きくなり、倒れ始めると止まらない・戻すのに手数がかかるという性質を持ちます。
「吸い寄せられる」ように感じるのは、この慣性が増しているためです。
ただし、いつもそうとは限らない(否定側の留保)
① タイヤと空気圧で変わる
プロファイル形状や剛性が復元を助けるタイプのタイヤでは、深いバンクでも立て直しが軽く感じられます。
② ジオメトリ次第で補える
トレールを短めに、オフセットを増やす、あるいは前上げ/後上げで調整するなど、
車体設計次第で復元性を強める方向にもできます。
③ ライダー入力で相殺可能
立ち上がりで短く強い外側へのカウンターステアを入れ、スロットル開度と車体姿勢を同期させると、内倒れの傾向を抑制できます。
④ 速度域による違い
高速になるとホイールのジャイロ効果や空力の影響が強まり、内側への吸い込み感は小さくなる傾向があります。
実務的な対策(手早く効く順)
- フロントをわずかに上げる/リアをわずかに上げる(=実効レイクを起こし、トレールを短くする)
- トリプルのオフセットを+5〜10mm増やす(舵が残りやすくなる)
- フロント伸び側減衰を少し強める(アクセルON時の直進化を抑制)
- “オン寄りプロファイル”の前タイヤ+適正空気圧
- 外周軽量化(ホイール・ブレーキ)で向き変えの慣性を減らす
- 操作として、立ち上がりで短く強い外押し+スロットル同期
まとめ
深いバンクで「地面に吸い寄せられる」ように感じるのは、
復元を助ける要素(トレール・セルフアライニング・スプリング反力)が同時に弱まるためであり、
高重心ほどその“内倒れモーメント”が強く働くからです。
ただし、ジオメトリ・減衰・タイヤ・操作入力を適切に整えれば、
この現象は十分にコントロール可能です。
つまり、あの“吸い寄せられる”感覚は、
ライダーがバイクの重心と力の流れを正確に感じ取っている証拠でもあります。