油圧機器の大敵、キャビテーションとは?
【キャビテーションとは?】
キャビテーションは、作動流体(液体)が圧力の低下により気化して気泡が発生する現象です。特に、流速の増大や圧力の急激な変化が原因となります。発生した気泡は、圧力が回復すると急激に崩壊し、その際に生じる衝撃圧が設備や機器にダメージを与えることがあります。この現象によるダメージはエロージョン(摩耗・壊食)と呼ばれ、設備の寿命を縮める原因となります。また、キャビテーションは振動や騒音の原因にもなります。
キャビテーションが引き起こす主な問題
- 油圧ポンプでの問題
油圧ポンプの回転数が高くなると、吸込み部の流速が増加し、局所的に圧力が低下します。圧力が飽和蒸気圧以下になるとキャビテーションが発生し、気泡が吸込み体積を占めることで吐出流量が減少し、油圧システム全体の性能が低下します。 - ショックアブソーバでの問題
ショックアブソーバは車両の振動を減衰させる装置ですが、ピストンロッドのストローク速度が急激に増大すると、圧力が低下しキャビテーションが発生します。この気泡により作動油の圧縮性が変化し、ショックアブソーバの減衰力特性が設計通りに発揮されなくなるため、車両の乗り心地や操縦安定性に悪影響を及ぼす可能性があります。
【ショックアブソーバ内でのキャビテーション発生の原理】
ショックアブソーバ内では、ピストンと**シム(板バルブ)**が連動して油を移動させます。この動作の際に、以下のようなプロセスでキャビテーションが発生します:
- 圧力低下による気泡の発生
ショックアブソーバのピストンが急激に移動すると、ピストンの裏側(低圧側)の圧力が急激に低下します。特に、シムを通過する油の流速が速くなると局所的な圧力低下が起こり、油が飽和蒸気圧以下になることで気泡が発生します(キャビテーション発生)。 - 気泡の崩壊と損傷
発生した気泡は、ピストンが移動して圧力が回復すると急激に崩壊します。この際に衝撃圧が発生し、ショックアブソーバ内部のバルブやシリンダー壁面にダメージを与えます。これがキャビテーションによる**エロージョン(損傷)**の原因となります。 - 作動油の圧縮性の変化
キャビテーションによって発生した気泡が作動油に混ざると、油の圧縮性が変化します。これによりショックアブソーバの減衰力が設計通りに発揮されなくなり、車両の安定性や乗り心地に悪影響を与えます。
【ガス圧力がキャビテーションに与える影響】
多くのショックアブソーバでは、ガス圧力が加えられており、このガス圧がキャビテーションの発生を抑制する重要な役割を果たしています。
- ガス圧による圧力低下の防止
ショックアブソーバ内のガス室に充填された窒素ガスなどが作動油に圧力をかけています。このガス圧によって、作動油の圧力が極端に低下するのを防ぎ、キャビテーションの発生を抑制します。 - 体積変化の補正
ショックアブソーバの作動油は温度やストローク動作によって体積が変化します。この体積変化を補うために、ガス圧が油を押さえつけ、内部の圧力を一定に保つことでキャビテーションの発生を防ぎます。 - 空気混入の防止
ガス圧が適切に維持されていると、作動油内に含まれる空気の析出を防ぎます。ガス圧が低いと油内の空気が析出し、気泡が混入することでキャビテーションが発生しやすくなります。 - 減衰力特性の安定化
ガス圧が適切であると、ショックアブソーバは設計通りの減衰力特性を発揮しますが、ガス圧が低下するとキャビテーションが発生しやすくなり、減衰力が不安定になるため、乗り心地や性能に影響を与えます。
【まとめ】
ショックアブソーバ内でキャビテーションが発生する主な要因は、ピストンとシム間での急激な圧力低下です。ガス圧力は、作動油の圧力を一定に保つことでキャビテーションの発生を抑え、ショックアブソーバの性能を安定させます。ガス圧力の管理がキャビテーション防止と安定した減衰力の維持に重要な役割を果たしているため、ガス圧力を適切に保つことが非常に重要です。
用語解説
飽和蒸気とは、液体がその温度で蒸発し、気液平衡状態に達したときに、気体として存在する蒸気のことを指します。この状態では、液体が蒸発して気体になる速度と、気体が凝縮して液体になる速度が釣り合っており、蒸気がそれ以上増加できない限界の状態です。
飽和蒸気圧は、液体がその温度で蒸発して飽和蒸気となるために必要な圧力です。温度が上昇すると液体の蒸発が活発になり、飽和蒸気圧も高くなります。つまり、温度が高いほど液体が蒸気に変わりやすくなり、低いほど蒸気が凝縮しやすくなります。
飽和蒸気は、キャビテーションなどの現象において重要な概念で、流体中の圧力が飽和蒸気圧以下になると液体が気化し、気泡が発生します。
気液平衡状態とは?
気液平衡状態は、液体が蒸発する速度と、気体が液体に凝縮する速度が等しくなる状態のことを指します。言い換えると、この状態では、液体と気体の間で分子の移動は続いているものの、全体としての液体や気体の量に変化がないのです。
例えば、コップに水を入れて放置すると、時間が経つにつれ水は蒸発していきますが、一定の条件下では水の蒸発速度と空気中の水蒸気が再び液体に戻る速度が釣り合い、やがて水の量が変わらない状態が訪れます。これが気液平衡です。
この概念を大気に置き換えると、湿度が高くなり空気中の水蒸気量が飽和状態に近づくと、蒸発と凝縮が均衡します。つまり、気温と湿度がつり合い、これ以上水が蒸発することもなく、同時に水蒸気が過剰に凝縮して液体に戻ることもない安定した状態です。
重要なのは、蒸発と凝縮は絶えず起きているという点です。しかし、両者の速度が等しいため、見かけ上は変化がないように見えるのです。これが気液平衡の基本的なメカニズムです。
気液平衡は、蒸発や湿度に関する多くの現象を理解する上で欠かせない概念です。
エアレーションとキャビテーションの違い
両者はどちらも流体中で気泡が発生する現象ですが、原因や影響が異なります。
- エアレーションは、流体中に外部から空気が混入する現象です。これは、攪拌やタンクの振動、油圧回路の動作により、空気が作動油や液体に入り込むことで起こります。エアレーションにより気泡が流体中に滞在すると、ポンプやバルブの性能が低下することがあります。
- キャビテーションは、流体の圧力が飽和蒸気圧以下に低下することで液体が気化し、気泡が発生する現象です。気泡が崩壊する際に衝撃圧が発生し、装置にダメージを与えることがあります。