バイクの直進性を作り出すのは後輪である 1G沈下量と直進性の関連など
先日、那須スポーツランドでCRF450Rを題材とし、LGNの安全性検証テストを行いました。
RCT(ロードコンタクトテクノロジー)理論からLGNの安全性や優位性は机上論としても実感としても理解はしていましたが、サーキットでそれを実証するため、那須に行ってきました。
結論を言えば「LGNは安全性が極めて高い」ローダウンと言えるでしょう。それは以下の仮説から数式での検証を経て、実証により証明されました。次にその流れを説明します。
い: ローダウンはサスペンションストロークが短くなるため、スプリングを硬くする必要があり、それら両者は乗り心地の悪化と共にハンドリングと安全性を低下させる
ろ: LGNはスプリングのみを交換し、空車1Gと乗車1Gを大きく取る(つまりサスペンションの沈み込みを増やす)ためサグと呼ばれるリバウンドストロークが大きく取れる
は: 次の数式により、前輪操舵の車両では後輪が直進性を担うことが示されています。
以下で詳細に説明します。
1. フロントタイヤとトレールによる直進性
- トレールはフロントタイヤの「回転軸の接地点が車体後方にずれている距離」を指し、このジオメトリは二輪車のステアリングが自然に「センター位置に戻る」性質を生み出します。したがって、フロントタイヤは直進性の補助的な役割を担いますが、主として車体の直進を維持する機構ではありません。
- トレールによって、フロントタイヤは車体が進む方向に「追従」する傾向が強まりますが、直進性を生む力ではなく、むしろそれに応じて「安定性を補う」役割です。
2. リアタイヤが直進性の主体である理由
- 二輪車が前進する際、駆動力が後輪から生まれる場合、リアタイヤは車体を押すような力を生み出し、路面に対して前進方向を保持します。このリアタイヤの駆動が、車両の直進性を支える大きな力となっています。
- また、リアタイヤの接地面が路面に与える抵抗(特に滑らかでない路面で)は、進行方向を維持し、直進性を物理的に生み出す安定要因ともなっています。
3. フロントタイヤの追従的な役割
- リアタイヤが直進方向を保持することで、フロントタイヤはその進行方向に追従し、安定を補強します。特に二輪車がコーナーから立ち上がる際や、荒れた路面を通過するときなど、リアタイヤの直進力に対してフロントタイヤが少しずつ正面へ戻ろうとする動きが働くため、リアタイヤが引っ張り、フロントタイヤが追従する構造が見られます。
4. 物理法則としての解釈
- 直進性の主な起点はリアタイヤにあるといえます。リアタイヤが進行方向に対して支え、摩擦を伴って「進行軸」を維持し、これにより全体の直進安定性が確保されます。
- フロントタイヤは追従と安定補助に徹するため、リアタイヤが進行方向の軸を定めるとともに、トレール効果を用いてフロントタイヤがセンターに戻りやすくなるのです。
結論
この仮定は物理法則や幾何学的観点から妥当です。リアタイヤが直進性を担保し、フロントタイヤがその方向に追従するという役割分担が、二輪車の安定した直進性を支えているといえます。
次に現実として起こりうる事象、私が実際に経験した内容を踏まえて、一連の流れを追っていきましょう。
状況a ここでLGNによる1G沈下量を大きくした車両がフロントブレーキを強く効かせた状況を想定します。フロントはローダウンにより減ったストロークを直ぐに使い切り、タイヤがロックして滑り出しました。
状況b 滑った前輪は転倒を引き起こそうとします。
状況c リバウンドストロークがしっかり後輪は浮き上がらず(ジャックナイフにならない)、しっかりと接地しており、直進性を保ちます。
状況d 後輪が真っすぐ進むため、先ほどの式で示したように追従する前輪も復元し直進しやすくなりす。
結論 状況a~dで説明したように、ローダウンのマイナス要素をLGNの場合では全体として取り戻すことができるため、安全性がローダウン前よりも極端に劣ることがなく、総体としてノーマルと同水準か状況によってはプラスになる事すらありえます。
追記として数学的な照明を以下に示します。
二輪車の直進性に関して、「リアタイヤが直進性を生み出し、フロントタイヤが追従・安定を補う」という仮定を数学的に証明することは、以下のような力学・幾何学の観点から近似的に示すことが可能です。
証明のアプローチ
- リアタイヤの直進力と進行方向の設定
- リアタイヤが車体の直進性を担保するため、リアタイヤの進行方向に対する進行軸をまず数学的に定義します。
- 駆動力 Fr をリアタイヤが生み出し、路面との摩擦によってその力が進行軸を保持する要因であることを式で示します。
- トレールとフロントタイヤの追従性
- フロントタイヤのトレール量(トレール長)Tを定義し、トレールが車体が進行方向に戻る(直進性を補助する)特性を式で示します。
- バランス方程式と安定性条件
- リアタイヤの直進性が支配的であることをバランス方程式で示し、これにフロントタイヤの追従性がどのように影響を与えるかを導きます。
数学的な証明手順
1. リアタイヤによる直進性の生成
リアタイヤの進行方向を θr(リアの進行角度)とし、リアタイヤが生み出す駆動力を Fr とします。リアタイヤが進行方向に路面との摩擦力 μ で抗力を受ける場合、進行方向は摩擦力によって保たれます。
進行軸を x-軸方向とすると、進行方向の維持条件は以下の式で表されます。
Fr=μWr
ここで、Wrはリアタイヤの荷重です。この力によってリアタイヤが進行方向を定め、車体全体の直進性を担保します。
2. トレールによるフロントタイヤの追従
フロントタイヤにはトレール量 T があるため、フロントタイヤの接地点がステアリング軸から Tだけ後方に位置します。トレールは車体が直進方向から外れると「セルフアライニングトルク」を生み出し、フロントタイヤがリアタイヤの進行方向に戻ろうとする特性を持ちます。
トレールの効果は次のように表せます。
Mf=T⋅Ff
ここで Mf はフロントタイヤの戻ろうとするモーメントで、Ff はフロントタイヤの横方向の摩擦力です。このモーメント Mf がフロントタイヤをセンターに戻す力として働き、車体の直進性が補助されます。
3. フロントとリアのバランス方程式
リアタイヤが進行軸を定めているため、フロントタイヤが外力によりわずかに左右へ振れても、トレールによって常にセンター位置に戻る方向に働きます。
全体のバランスを考慮すると、フロントタイヤの安定性を支えるトルク Mf がリアタイヤの進行方向に対して次の安定条件を満たすとき、フロントタイヤはリアタイヤの進行に追従することがわかります。
Mf=T⋅μWf
ここで Wf はフロントタイヤの荷重です。上記の式は、リアタイヤの進行方向が強く、フロントタイヤがそれに追従し、直進性を維持することを示します。
結論
リアタイヤの摩擦力と駆動力により進行方向が設定され、トレール効果によるフロントタイヤの安定トルク Mf が働くことで、フロントタイヤはリアタイヤの設定した直進性に追従します。したがって、この仮定は物理的にも妥当であり、リアタイヤが直進性を生み出し、フロントタイヤがそれを補助しているといえます。
LGNが“新世代のローダウン”や“ローダウンの新常識”と表現される理由について、ご理解いただけたはずです。