タイヤの力学 キャンバースラストとは?
今回からタイヤの力学について、いくつか記事にしていきますが、先ずは過去の記事を紹介しつつ、理論背景をより詳細に説明を追加します。
以前の記事
タイヤの旋回性能
旋回時のタイヤの挙動は、単なる摩擦だけではなく、タイヤの形状や変形によっても大きく影響を受けます。特に、バンク角を付けた際のタイヤの接地点の変化や、タイヤの変形によるグリップ力の向上が重要です。
2.1 キャンバスラスト
バイクが旋回する際には、バイク自体が倒れ込み、タイヤの接地点が変化します。この際に発生する旋回力をキャンバスラストと呼びます。タイヤのプロファイル(断面形状)は、中央部が高く、端に向かって低くなる設計が一般的です。これにより、バイクが倒れたときにタイヤの接地点が内側に向かい、より鋭い旋回が可能となります。
また、タイヤのケーシング剛性も旋回性能に影響を与えます。剛性が高いタイヤは、変形が抑えられ、安定した旋回が可能です。逆に、剛性が低いタイヤは大きく変形し、より多くの路面に接触することでグリップ力が増しますが、コントロールが難しくなることもあります。
追加説明
キャンバースラストの深堀り
キャンバースラストは二輪車の旋回性能を支える基本的な力の一つで、バイクがバンクすることで自然に生まれる横方向の力です。この力は、タイヤの形状、ケーシング剛性、バンク角の組み合わせにより決定され、二輪車がカーブで安定して旋回するための要素です。
1. キャンバースラストの仕組み
キャンバースラストは、バイクのバンク角とタイヤのプロファイル(タイヤ断面の形状)に依存して発生します。以下の要素が関係しています:
- バンク角の影響:バイクがカーブで傾く(バンクする)と、タイヤは単に路面と垂直に接地するのではなく、接地点が内向きに移動し、横方向に力が生まれます。この横方向の力がバイクを内側に引き込むキャンバースラストとして作用します。
- タイヤプロファイル:タイヤ断面は、中央部が高く、両端が低くなるように設計されています。この形状により、バイクがバンクするほど接地面が内側に移動し、旋回力が強くなります。特に、尖った断面プロファイルを持つタイヤでは、接地面が内側に寄りやすく、バンク角に応じた旋回性が向上します。一方で、平らなプロファイルを持つタイヤでは、接地点が中央に近いままとなり、旋回時にバンク角を大きく取ってもキャンバースラストが増加しにくくなります。
2. キャンバースラストとケーシング剛性
ケーシング剛性(タイヤの内部構造の硬さ)は、タイヤの変形度合いを左右するため、キャンバースラストに直接的な影響を与えます。
- 剛性が高い場合:ケーシング剛性が高いと、タイヤの変形が少なくなり、安定したキャンバースラストが発生します。これにより、バイクが安定した旋回を行いやすくなります。剛性が高いタイヤは、変形によってグリップが過剰に増すことがなく、特に高速コーナリングでの安定性が高まります。
- 剛性が低い場合:剛性が低いと、タイヤがより大きく変形し、路面との接触面が増加します。これにより、より多くのグリップ力が得られますが、タイヤの変形によりキャンバースラストの安定性が低下する可能性があります。特に急旋回では、コントロールが難しくなることもあります。この特性は、低速での旋回や不整地での安定性には有利ですが、高速旋回時にはバイクの動きが不安定になる可能性があります。
3. タイヤのコンタクトパッチとキャンバースラスト
タイヤの接地面(コンタクトパッチ)は、キャンバースラストの発生に不可欠な要素です。バンク角が大きくなるほど接地面積が偏り、キャンバースラストによって横方向の力が生まれます。ここで、接地面積の変化がグリップ力にも影響を与えます。
- 接地面積の変化:バンク角が大きくなると、タイヤは内側に偏った形で路面と接触し、接地面が内側に寄ります。この際、タイヤは横方向に力を発生させるため、旋回性能が向上します。また、接地面積が増加することでグリップが高まり、キャンバースラストも増強されます。
- 摩擦特性の変化:接地面の形状が変わると、タイヤが路面から得る摩擦も変化し、タイヤが内向きに引かれるように旋回が促進されます。この状態では、キャンバースラストによって発生する横方向の力が安定し、二輪車の旋回性が向上します。
4. キャンバースラストの限界
バンク角が増えるほどキャンバースラストも増加しますが、一定のバンク角を超えると旋回性能が頭打ちとなり、バンク角に対して比例的に旋回性が増さない領域に達します。この限界を超えると、以下の現象が起こります:
- 旋回性能の頭打ち:バンク角が極端に大きくなると、接地点がさらに内側に移動しすぎてしまい、タイヤの接地バランスが崩れ、横方向の力が生まれにくくなります。これにより、倒しただけでは曲がらない状態となり、キャンバースラストが飽和状態に達します。
- コーナリングフォースとの併用:この状態を超えたバンク角では、キャンバースラストだけでの旋回は難しくなるため、コーナリングフォース(スリップアングルに基づく横方向の力)との併用が不可欠です。この際、コーナリングフォースが支える形でバイクの旋回を助け、安定性を保ちながら旋回が実現します。
まとめ
キャンバースラストは、二輪車がバンク角を取ることで自然に発生する旋回力であり、タイヤのプロファイルやケーシング剛性、コンタクトパッチがその挙動に影響を与えます。特に、剛性が高いタイヤは変形が少なく安定性を保ち、剛性が低いタイヤはより多くのグリップが得られるものの、旋回の安定性にやや不安定な側面が現れます。バンク角がある程度まで高まると、キャンバースラストだけでは旋回を維持できなくなるため、コーナリングフォースの介入も必要となります。