タイヤの力学:コーナーリングフォース

前回に引き続き、タイヤに関して考えていきます。

以前の記事を参照し、そこに追加の理論説明を行います。

コーナーリングフォースとは

タイアは旋回中に横方向の力が加わり、サイドウォールが変形します。それによりホイール(変形しないという意味でタイアの真の向き)の向きと車両の進行方向にはズレが生じます。このズレの事をスリップアングルと呼び、コーナリングフォースという曲がる力となります。

コーナリングフォースはスリップアングルが10数度で天を迎え、徐々に旋回力は下降します。その原因は以下の3つです。
①タイアグリップの限界 ②接地面の部分的な滑り ③ねじりが大きくなると接地状態が不均一となりグリップ力が下がる。

スリックタイアはグリップが高く、トレッド剛性も高いのでコーナリングフォースが高いために、旋回力が高いのです。

80年代以降は前後タイアの形状の違いは顕著。

前後タイアの形状とジオメトリによる違い

フロントタイアは操舵角(ハンドルの切れ角)が一定でもバンク角が深まるに連れ、旋回力が高まります。バンクによるコーナリングフォースに見合ったスリップアングルが稼げます。

対してリアはそのままではコーナリングフォースが頭打ちになるため、リアは軌跡を外側へ移してスリップアングルを稼がなくてはなりません。

ゆっくり走りながらバイクを倒してゆくと感じ取れますが、低い速度でバンク角が浅いとき、前後タイアの軌跡(タイアの走る線)はフロントの旋回半径が大きく、リアのそれは小さいのですが、この主たる原因は操舵軸(舵)が前輪にあるからです。
逆にリアに操舵軸を持つ車両(たとえばフォークリフト等)はリアの旋回半径が大きくなります。

あるコーナーで一定の速度でバンク角を徐々に深めてゆくと、前後タイアの軌跡が徐々に移り変わるのを体感出来ます。
浅いバンク角ではフロントが外を回り、徐々に変化し前後タイアが同一線上をはしり、更にバンク角が深くなるとリアが大きく回る様になります。

これは二輪車の基本的な特性です。つまり二輪車の基本特性はアンダーステアから始まりバンクが深まるに連れオーバーステアになる。という訳です。

追加説明

コーナリングフォースの深掘りと追加説明

コーナリングフォースは、二輪車が旋回時に横方向の力を発生し、スリップアングルによって旋回を補助する力です。この力の発生メカニズムと、その限界に関する要因を深く理解することで、タイヤがもたらす旋回性能の特性や限界により明確な洞察が得られます。

1. コーナリングフォースの発生メカニズム

コーナリングフォースは、タイヤが進行方向とは異なる方向に力を受けて変形することで発生します。タイヤのサイドウォールが変形し、ホイールの向き(本来タイヤの向くべき方向)と車体の進行方向にズレが生じることで生まれる力であり、以下の要素が関係します。

  • スリップアングル:車両が旋回する際、タイヤの向きと実際の進行方向に生じる角度(スリップアングル)です。この角度が大きくなるほど、サイドウォールの変形が増し、より大きなコーナリングフォースが生じます。
  • サイドウォールの変形:タイヤのサイドウォールが横方向に変形し、路面に接触している接地面が変化します。これにより、コーナリングフォースが生まれ、車両を内側に引き込むように作用します。

2. コーナリングフォースの限界

スリップアングルが大きくなるほどコーナリングフォースは増大しますが、一定の角度(通常は10数度)に達すると、コーナリングフォースの増加は頭打ちとなり、逆に減少する傾向があります。この限界に達する理由は以下の通りです:

  1. タイヤグリップの限界:スリップアングルが過度に増大すると、タイヤのグリップ力が限界に達し、横方向の力を支えきれなくなります。タイヤ接地面の摩擦が不足し、部分的な滑りが発生します。
  2. 接地面の部分的な滑り:タイヤの接地面全体が均等に路面と接触しなくなり、部分的な滑りが生じることで、コーナリングフォースが減少します。
  3. ねじりによる接地不均一:スリップアングルが大きくなりすぎると、タイヤ接地面のねじれが強くなり、タイヤが安定して路面に接触できないため、旋回力が下がります。

3. タイヤ形状の影響と前後タイヤの役割の違い

前輪と後輪では、コーナリングフォースの発生特性が異なります。これは、前後タイヤの形状とジオメトリの違い、および二輪車の旋回時における役割の違いによるものです。

  • フロントタイヤの旋回特性:前輪の役割は旋回方向を指示することにあり、バンク角が深くなるほど旋回力が強まります。バンク角が増すと、スリップアングルがより多く稼げるため、旋回時の安定性が増します。このため、フロントタイヤの形状は尖ったプロファイルが好まれることが多く、旋回性能を強化します。
  • リアタイヤの旋回特性:リアタイヤは前輪と異なり、スリップアングルを大きく稼ぐのが難しいため、旋回性能には限界が生じます。特に高バンク角時では、リアタイヤが安定的に旋回力を発揮するために、後輪は軌跡を外側へ移し、スリップアングルを増大させる必要があります。

4. コーナリング特性の移行とアンダーステアからオーバーステアへの移行

二輪車が旋回中にバンク角を深めると、前後タイヤの軌跡は次第に変化し、以下のような挙動が見られます。

  • 浅いバンク角でのアンダーステア:バンク角が浅い状態では、フロントタイヤの旋回半径が大きく、リアタイヤの旋回半径が小さくなるため、アンダーステア特性が発生しやすくなります。これは、前輪が進行方向をリードし、後輪が追従していく挙動によるものです。
  • 深いバンク角でのオーバーステア:バンク角が深まると、リアタイヤのスリップアングルを高めるため、旋回軌跡を外側に移すことが求められ、結果としてリアタイヤが外側にスリップし、オーバーステア特性が顕著になります。

追加説明のまとめ

コーナリングフォースは、スリップアングルとサイドウォールの変形を通じて生じるものであり、タイヤの形状、グリップ限界、接地面の変化などによって特性が決まります。また、二輪車特有の旋回時の挙動として、バンク角による前後タイヤの役割の違いから、旋回特性がアンダーステアからオーバーステアへと移行することが理解されます。

こうした理論を理解することで、コーナリングフォースの限界や二輪車の旋回特性をより的確に把握できるようになり、旋回時の挙動への理解が一層深まります。

追記 混同しやすいスリップアングルとコーナリングフォースの違いについて

コーナリングフォースとスリップアングルは密接に関係していますが、スリップアングルが「角度的なずれ」であるのに対し、コーナリングフォースはそのずれにより発生する横方向の力として生じる結果です。ですからA≒Bの関係にあるものの、表現上は完全に同一とはいえません。

詳しい関係性の補足

  1. スリップアングル(A)
    • タイヤの向き(ホイールの進行方向)と車両の進行方向に生じる角度のずれです。この角度は、コーナリング中にタイヤのサイドウォールやトレッドが路面に対して横方向に変形することで生まれます。
  2. コーナリングフォース(B)
    • スリップアングルの発生に伴い、タイヤ接地面に横方向の力が発生します。この力が車両を旋回させる作用を担うコーナリングフォースです。

結論

したがって、スリップアングルが生まれることでコーナリングフォースが生じるという因果関係がありますが、両者は異なる表現であり、物理的な役割も異なります。A≒Bという形で捉えるのは妥当ですが、「スリップアングル(A)」が原因で「コーナリングフォース(B)」という結果が得られる、と分けて理解するのが精確です。

スリップアングルとコーナリングフォースの間には確かに強い相関があるものの、タイヤ特性により発生するコーナリングフォースには限界(頭打ち)があり、そのため完全相関には至らないといえます。同一タイヤであっても、以下のような要因が関わり、スリップアングルとコーナリングフォースの関係は厳密には一定の相関に留まります。

相関を制限する要因

  1. タイヤのグリップ限界
    • タイヤの摩擦力や素材特性により、スリップアングルが増大してもグリップ限界に達するとコーナリングフォースが頭打ちになります。この時、スリップアングルを増しても、コーナリングフォースはそれ以上増加しません。
  2. 接地面の滑り
    • スリップアングルが大きくなると、接地面の一部で滑りが発生し、コーナリングフォースが不均一になります。これにより、タイヤ全体が発揮する旋回力が限界を迎えます。
  3. 変形と復元力の限界
    • タイヤのサイドウォールが変形することでスリップアングルが生じますが、この変形にも構造的な限界があります。タイヤが元の形状に戻ろうとする復元力が限界に達すると、それ以上のコーナリングフォースは発生しにくくなります。

同一タイヤでの相関性の結論

そのため、同一タイヤ内でのスリップアングルとコーナリングフォースは強い相関を持ちつつも、一定の頭打ちが存在するために完全相関ではないと考えるのが妥当です。このように、スリップアングルとコーナリングフォースの関係性は非常に密接ですが、相関の限界もあるため、ある程度の範囲内で比例的に関連すると捉えるのが現実的です。

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