タイヤの力学:接地点
今回はタイヤの接地点について、過去の記事を参照にしつつ追加の説明を行います。
タイアの接地点
面で接地しているタイアだが、その接地面はどこに存在するのか。加速(加速旋回を含め)タイア中心の後方にあります。バイクを倒した旋回加速中はタイア後方の内側となります。面で接地している力は集約できますがその一点の事を着力点と呼びます。
この着力点は重心に似ています。重量はその中心となる点に集約出来ますが、着力点はそれと同じです。
旋回と加速による横Gと加速で変形したタイアは元の形状に戻ろうとします。この戻ろうとする力をセルフ・アライニング・トルクと呼びます。
タイア本来の中心から着力点(両者のズレ)までをニューマチック・トレールと呼びますが、この距離はタイアの変形で生み出されています。
当然ゴムがネジラれて生み出された力(セルフ・アライニング・トルク)は元の形状に戻ろうとします。これがハンドルから感じる操舵力となり手応えの正体です。
追加説明
タイヤ接地点に関する上記の説明に続いて、接地点の変形や、セルフ・アライニング・トルクの役割、ニューマチック・トレールの発生についてさらに補足します。
タイヤ接地点の動的な変形と着力点の変化
タイヤが路面に接地する際には、接地点が一定の面積として広がりますが、横Gや加速Gが加わることで、接地面に変形が生じ、接地圧が局所的に分布するようになります。この変形により、タイヤの接地面内の「着力点」はタイヤ中心からずれていき、バンク角や加速・旋回の状況によって変化する動的な要素です。
- 加速時の着力点:加速中はタイヤが後方へ力を伝えるため、接地点もタイヤ中心の後方にずれます。特にバンクを伴う旋回加速時には、接地面の内側後方に力が集中しやすく、加速力と横方向の旋回力の合成ベクトルがこの位置に集まります。
- 旋回中の着力点:旋回時は、サイドウォールが路面に対して横方向に変形し、タイヤが進行方向に対してわずかに横を向くため、着力点がタイヤの横方向にもずれます。この着力点の変化により、車体の安定性や旋回特性が影響を受けます。
セルフ・アライニング・トルクの発生とその手ごたえ
タイヤが路面に接している間、タイヤが変形して生まれるズレ(スリップアングル)は接地面のゴムがねじれることで生じます。ゴムは元の形状に戻ろうとする性質を持っており、この復元力が**セルフ・アライニング・トルク(SAT)**を生み出します。このトルクが操舵感としてライダーに伝わり、バイクが自然にセンターに戻るような手ごたえとして感じられます。
- セルフ・アライニング・トルクの増加要因:
- スリップアングルが増すとねじれ量が増え、セルフ・アライニング・トルクも増加します。
- 接地面が広がる(例えば空気圧を下げた場合など)と、接地面でのねじれが増えるため、SATも増加します。
- セルフ・アライニング・トルクの減少要因:
- スリップアングルが過大になり、接地面が滑り始めると、タイヤのねじれによる復元力が減少し、SATが低下します。
- 極端なバンク角により、接地点がタイヤの端に達した場合もSATが減少することがあります。
ニューマチック・トレールとその効果
ニューマチック・トレールは、タイヤの接地面の力が集まる「着力点」とタイヤの本来の中心位置のずれにより生じます。このニューマチック・トレールの距離が長くなるほど、タイヤが進行方向に引っ張られる力(安定力)も強くなります。
- ニューマチック・トレールの役割:ニューマチック・トレールが大きいほど、バイクは自然に直進方向に戻ろうとする安定性が増し、ライダーが感じるハンドルの手ごたえ(操舵力)がしっかりとしたものになります。
- ニューマチック・トレールの変化:バンク角が大きくなり接地面がタイヤの端に近づくと、ニューマチック・トレールも短くなり、直進性が弱まりハンドルの安定感が減少するため、繊細なハンドリングが必要とされます。
まとめ
上記のように、タイヤの接地面の変形と接地点の変化によって、着力点が変動し、それがニューマチック・トレールやセルフ・アライニング・トルクに影響を与えます。これらの要素はライダーが感じる操舵力や手ごたえに直結し、特に高バンク時や急旋回時にはタイヤの変形特性がバイクの操作感や安定性に大きく影響します。このように、タイヤの接地点に関する力学を理解することで、バイクの旋回性能や安定性の本質が明らかになります。