タイヤの力学:空気圧

今回が最終回となります。やはり前半は以前の記事から抜粋し、後半で補足説明を行います。

 空気圧での変化

タイアは協会規格で基本が決められています。レースタイアはその限りではありません。

タイアの空気圧は協会の規格書を読めば数値が書いてあります。それは規格で保証された数字であり、それ以上の事も在るでしょうが、最低限この数値は担保しているという意味です。

 空気圧を高めると何が起こるのか?

1燃費が改善します。
しかし実際に試した限りではそれほど大きな改善には繋がりませんでした。規定圧がF2.5K R2.9Kの車両で規定値、前後2.4K、前後2.2K等試したのですが、1L当たり1Kmも変化しませんでした。車両は自己所有のBT1100です。

では他に何が起こるのか、です。

2楽し込みが軽くなる。
タイア形状が同一であれば空気圧で倒し込みの印象が変わります。空気圧が高いと剛性が上がりタイアの変形が抑えられます。これにより前述のコーナリングフォースが高まり、旋回性が高くなります。と同時にオーバ・ターニング・モメントが小さいので車両は起き上がろうとする力が弱まり、倒れやすい傾向になります。

補足説明 オーバ・ターニング・モメント

タイアが仮に線のように細ければバイクはどんどん倒れます。しかし実際のタイアは幅があり、倒れる程に接地点がコーナー内側へ寄ってゆきます。これにより重心と接地点にズレが生じます。これが車両を起こそうとする力=オーバ・ターニング・モメントの要因です。
詳細はもっと複雑で路面からの反作用などがありますが、私にその説明能力がないため、ここでは省略します。

 空気圧を下げると何が起こるのか?

一般的に空気圧を下げてグリップ力を稼ぐ。といった事を目にしますが、私はそういった理由で空気圧を調整していません。それでは何を根拠に空気圧の調整を図るのか?となりますが、それは以下の理由からです。

1乗り心地を重視しているから
前述の通り空気圧では燃費は劇的に変化しません。それならば乗り心地を良くしたほうが効果的だと考えています。メーカー純正の空気圧は乗り心地の面では良いとは言えず、大抵の場合、下げる傾向にあります。
これも先程紹介した規格書に在る範囲で問題が無いことを確認しています。空気圧の増減で最大荷重は変化しますが、ならば規格にある数値よりも最大荷重(積載や速度)が低ければ、空気圧は低くても問題が無いのです。

2グリップ力が高まる
先ほどと違い矛盾した事を言うようですが、接地面が増えてグリップが高まると言うわけではありません。空気圧を下げることにより、路面の凹凸をサスペンションだけでなくタイアも柔軟に吸収します。タイアがグリップを発揮するための絶対条件は一つ、それは「路面とタイアが接している」に着きます。

小さな範囲でも路面とタイアは隙間が生まれています。タイアが跳ねないようにサスを調整して柔軟に対応させるのが私の仕事でもありますが、サスだけでなくタイアにもその仕事を積極的に負わせます。もちろん下げれば下げるほど良い訳ではなく、適切な圧があります。

 3自分の感覚に合わせる
空気圧を下げる場合だけに限りませんが、最大グリップを極端に負う必要が無ければ、自分の感覚にあった動きになるよう調整するほうが楽しく乗れるし、それが安全にも結びつきます。とい訳でほとんどの場合で私は規定圧よりも低めに設定していますが、お客様の中ではほぼ純正のまま乗る方もいます。ですからこれは危険な範囲でなければ好みで選べば良いと思います。

 追加説明

空気圧とタイヤの剛性

空気圧を上げると、タイヤ内部の空気が増加し、ゴムの側面(サイドウォール)を支える力が強くなります。その結果、タイヤの変形が抑えられ、タイヤ剛性が高まります。これにより、ハンドリングの応答が速くなるとともに、コーナリング中に車体が安定した挙動を示しやすくなるため、ライダーにとっては軽快な操舵感が得られます。

低い空気圧と接地面積の関係

一方で、空気圧を下げるとタイヤが変形しやすくなり、接地面積が増加します。タイヤの接地面積が広がると接触圧が低下し、より多くの路面に触れるようになるため、路面の凹凸を柔軟に吸収できるようになります。これにより、乗り心地が向上すると同時に、接地圧の分布が均一になり、より安定したグリップが得られます

オーバー・ターニング・モーメントの増減

オーバー・ターニング・モーメントは、車両が傾いたときに接地点が内側に移動する現象に基づく復元力の一種です。空気圧が低いとタイヤは内側に変形しやすく、接地点がより内側に寄るため、バイクは起き上がろうとする力が増し、結果として車体の立て直しがしやすくなる特性が現れます。

空気圧と旋回性への影響

空気圧が高いと、タイヤはより高剛性で変形しにくくなり、特にコーナリング時に「倒し込みやすさ」が増す傾向にあります。これは、空気圧が高いと剛性の影響でオーバー・ターニング・モーメントが低下し、よりスムーズにタイヤが内側に倒れやすくなるためです。低い空気圧の場合、接地面積が広がり、バンク角が深くなるほど接地点がより内側に移動しやすくなるため、車体は立て直しがしやすく、安定した旋回性を得やすくなります。

まとめ

タイヤの空気圧はグリップ、ハンドリング、乗り心地において重要な調整要素です。空気圧を上げるとハンドリングの応答が速くなり、軽快な操舵感が得られる一方、空気圧を下げると接地面積が増えてタイヤが路面の凹凸に追従しやすくなるため、より安定したグリップが得られます。

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