バネ中心主義に至る道のり

サスペンションの“主役”はやはりバネだった

サスペンションを長く扱っていると、まず目につくのはダンパーの課題です。しかし フロントフォークやスイングアーム、さらにはフレーム全体を含めてサスペンションを眺めると、最重要部品はやはりバネ(スプリング) ——そう確信するに至りました。


ダンパーが脚光を浴びる理由

フロントであれば倒立・正立の構造、ステム剛性、オフセット。リアであればショック本体やスイングアーム。
これらは基本的に“変更しづらい”部位です。対してダンパーはアフターマーケット品が豊富で、減衰調整ひとつで体感しやすい。だからこそセッティングというとダンパーが主役のように語られがちです。

 


原体験──19 歳で味わった“ねっとりした”フィーリング

サーキットデビューは 19 歳、TZM50 でした。知人から譲り受けたその車両は YEC ショックとフォークスプリングが交換されていました。
タイヤから伝わる路面情報がねっとりと張り付くように感じ、「これはダンパーの魔法だ」と思い込んでいました。当時はバネよりも減衰調整にばかり熱中していたものです。

頭の中にあるのは岩井サーキットの1コーナー、左から右への切り替えした後の旋回です。または裏直後の右。


車高調整期──“高さこそすべて”と思い込む

その後、街乗りからサーキットまでひたすら車高と油面をいじり、**「フロント・リアの姿勢が決まればすべて解決する」**と信じていました。しかし、ハヤブサを街乗り用にセットアップした際——

車高よりバネ(プリロード)を先に合わせてみよう。

そう思い立って調整した瞬間、それまでの神経質なセッティングが一変。大枠が決まった“外さない”ハンドリングを得られたのです。


バネ中心主義へ――56Racing と NGK 杯での気づき

ホンダ・ドリームカップのサポートでは、調整できるのは事実上バネと車高だけ。4年にわたりその“引き算のセッティング”を続ける中で、中古の MC41(レースベース)でも驚くほど満足度が高いと実感しました。徹底的にバネを合わせ込んだ結果です。

極めつけは NGK 杯でお会いした往年の名ライダー・河崎裕之さんの一言。

「サスペンションの主役はバネだよ」

この言葉が胸に刺さり、私のセッティング哲学は完全に“バネ中心”へと舵を切りました。あれから 10 年以上経った今も、その信念は揺らいでいません。


得られた”ねっとり”感-その要因はバネでした

これらの知識をもとにセッティングを進めていくと、あのTZMで得られた原体験を再現できるようになりました。それは減衰力でセッティングを進めるのではなく、バネを徹底的に合わせこむことで、あたかも減衰力を強めたかのようなねっとり・しっとりとした動きを得られました。

逆に減衰力をいくら調整してもバネが合っていないと、思うような仕上がりにはならない。これはかなりの台数を調整してきた経験から間違いのない真理です。

次回予告

次回は、別車種のリアショック流用で起きたトラブルを題材に、
ダンパーストロークとバネ定数の関係を掘り下げます。どうぞお楽しみに。

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