カートリッジ構造、フリクション、ダンパー
昨日作業を行ったドカティのフロントフォークはオーリンズでした。
純正採用のオーリンズは徐々に部品の材質転換を行い、明らかなコストダウンを図っています。見た目で分かる一番大きな変更は、インナーチューブのコーティングが全体から半分になっている点です。オーリンズのフォークは殆どが固定勘合なので、これは明らかに摩耗性と摺動性が落ちるはずです。
カートリッジのロッドもアルミから鉄へと変わっています。これは研磨により動きを滑らかに出来るため、それほど問題になりません。問題は重量だけかと思います。
サスペンションにおけるダンパーはなぜ必要かと言えば、スプリングの制振が一番に挙げられます。乗り心地にも直結する問題です。その次はコントロール性だと考えます。スプリングは基本的には位置制御が主になります。もちろん定数と初期荷重の組み合わせによりサスペンションの動く速度制御も可能です。しかし位置制御に重点を置くと、速度制御に不都合が現れます。従って、一般に高性能ダンパーと呼ばれる品は、スプリングとダンパーの両者を合算して最大性能を確保し、その中でバネと減衰の均衡を作り出します。
減衰とは私の中では抵抗、またはフリクションと同義です。必要な時に必要なだけ現れる抵抗が減衰で、不要な時に現れてしまう減衰が抵抗と自身の中で定義しています。しかし、カートリッジ構造は部品点数が多くなり、摺動部品も増える事で抵抗も増大します。その部分の抵抗を減らせば、かなり乗り味に寄与します。
カートリッジのロッドはアルミでも鉄でも応力を受けしなった際に、かなりの抵抗を発生します。ここをハードクローム、またはそれにコーティングを施せばかなり摺動抵抗を減らせそうです。実際にそうなっているダンパーはクローズドカートリッジを採用した製品です。これは機構の内部を閉じるためにオイルシールが必要になり、面粗度を上げないと早期に油漏れが発生します。必要に迫られてそうなっていますがフリクションロスの低減という観点からは、かなりメリットがあります。しかし逆にオイルシールがあるという点でオープンカートリッジよりもフリクションが増えるデメリットもあり、前者と後者を合わせそれほど意味がないかもしれません。
特にクローズドカートリッジで加圧してあると、オイルシールが締まる為、抵抗は増します。シリンダー内に侵入してくるロッドの体積変化を受け止めるための、ガス室、空気室(ブラダ型もある)から受ける反力はかなり抵抗になります。場合によってはガス反力に応じるよう、最初からスプリングレートを落とす場合もあります。フリクションとガス反力を減らすために、オーリンズの加圧型カートリッジではロッド径を12mmから10mmへ細くしたり、8mmもあったような記憶があります。
モトGPを走った中野真矢さんに聴いた情報では、初期の加圧型フォークはブレーキの安心感は凄かったが、そのほかは乗りずらかったと言っていました。それは上記の点が大きく影響しています。八王子のモーターラボさんと組んで、クローズドカートリッジをスルーロッド方式(要するにステダン)で造った際も、その問題が露見しました。そこでばね定数を大きく落とし、油面を下げ対処しました。
それに対する回答らしき物が、FGのカートリッジです。Pressione Zeroと呼ぶ品ですが、訳せば「圧の無い」と言う意味です。これもステダン型なのですが、加圧していません。そのためオイルシールの締まりも弱く、ロッド侵入の体積も問題にならないため、実際に試乗した時もかなり好印象でした。現在のトップグレードのオーリンズはガス反力のあるタイプでも、相当良い動きをしていましたので、流石にその点を解消したようです。モトGPでは早くから加圧型スルーロッドを採用していると聞いています。
減衰と抵抗(ダンパーとフリクション)については、出来ることから実践して徐々に結果を報告します。