フロントフォークのオーバーホールと、旋盤加工の新境地
ドカティ・モンスターS4のフロントフォークですが、オーバーホールを終えました。
リアショックをFGで製作し、フロントフォークもオーバーホールとの依頼でしたが、インナーチューブがかなり傷んでおり、交換を提案し受け入れてくださいました。たまたま新古品のインナーチューブが手元にあり、お客様の予算も考え再メッキや新品のインナーを用意するよりも、目的に合致していたので、その新古品を使うことにしました。ただ大きな問題があり、インナーチューブの長さが大きく違っています。そのまま取り付ければ、インナーの先端がストロークの途中でトップキャップ下端と接触し、恐ろしい事態が起こります。そこで、インナーチューブを短くする改造を施し、純正と同じ長さになるよう加工を行いました。
手順は簡単で余分な長さ60mmを切り、新たにネジ切りするだけです。母材が何かはわかりませんが、45Cよりは削りやすく表面も整えやすいと感じました。ただし、回転と送り速度を間違うと少々面が荒くなる感じがS45Cと似通っているので、近い材料だと思います。私はアルミ素材は色々と削り試しましたが、鉄系は45C以外をほとんど知らないため、材料までは判別がつきませんでした。
ネジ切りはかなり楽に進められました。倒立フォークのインナーチューブはブラケットと嵌め合う部分がネジになっており、そのネジ部分は切り上げで出来ています。私の旋盤作業は殆どが独学で、先達の方々の見よう見まねで加工してきました。しかし、ネジ切りは見たことがありませんでしたし、もちろん切り上げの方法は全くわかりません。ですが、ネジ切り加工の経験が増すにつれ、色々と試す中で切り上げの手法もなんとなく見えてくるものです。しばらく前からはそれほど難しいと感じない水準で、切り上げができるようになりました。そうは申しましても、回転は遅めの145回転では自慢にもなりません。自分でネジ切りを行う一番の利益は、オスメスの嵌め合いを確認しつつ削り込んで行けるため、公差を無視して自分が納得できる、シットリとしたネジの回り方を追求できる点にあると言えます。壊れずにしっかり嵌れば、そんな感触は関係ないとわかっていますが、どうせ作るならそこまで神経を使った逸品に仕上げたくなるのが、加工を自分で行う人間の性でしょうか。ついつい追い込んでしまいます。切り上げる際の「シュッ」と手に来る感触もたまりません。
今回はとても満足のゆくネジの回り具合、感触を得ることができてとても嬉しいのですが、妻が「またネジの話題」と呆れる顔が脳裏をよぎります。