カートリッジキット完成。その後・・・
昨日完成したカートリッジキットの報告です。
オーリンズのFKRシリーズをTZR250RSP用に仕立て直す、当社の中では割と大仕事でした。
取り付け可能か分からない品を購入し、各部の寸法を検討しながら最小限の加工にとどめ、価格と納期を抑えます。そうは言ってもこのフロントフォークの総額は80万円に迫る価格となりました。以下に詳細と狙いを書き記します。
インナーチューブはヤマハR6を用いました。これには二つの理由がございます。TZRなど90年代の倒立フォークは製造メーカーも破損に対するデータが少なかったためか、過剰に重く頑丈でした。時代が下がるに従い必要十分な剛性バランスを理解し、軽量化を図つつも形状により剛性を確保することが可能になり、大幅に軽くなりました。
そのため、TZRのインナーチューブよりもR6の方が薄肉で軽量で、これが採用理由の一つ目です。二つ目の理由は、使用するキットがオーリンズのR6用であり、寸法の問題を極力起こさないためにもR6のインナーを使いました。
トップキャップはネジ寸法が全く違うため、オーリンズの部品を加工しました。アウターチューブを加工した方が楽なのですが、外径が太く旋盤の貫通穴に収まらず、仕方なくトップキャップの加工となりました。アルミのネジ切りは特段難しい訳でもなく、特に相手方のアウターもあり現物合わせで寸法を作り込めるのは気が楽です。ただし、トップキャップを旋盤で咥えるのは意外に難しく、その問題点は芯だしでなく咥え代の少なさが一番気を使うポイントとなります。
旋盤で加工を行った方は知っていると思いますが、薄肉パイプのチャッキングや掴み寸法が少ない品などは、工作物が外れチャックで壊してしまう事があります。高価なオーリンズの部品はトップキャップの在庫など持っている訳もなく、多少の緊張感を伴い加工に当ります。
スプリングの値はNSR250やCBRカップ、JP250、NSF250R等でかなり経験を積んでることもあり、難なく決定しました。ただし、そのまま使わずスプリング表面を研磨して摩擦抵抗を減らすと同時に、金属の削れカスも抑える様に配慮しています。
FKRシリーズはトップアウトスプリングのオプション設定が無く、部品を削り違うバネがハマる様にすることで、使いたい品を嵌めました。
このカートリッジキットのピストンは少々面白い形をしています。近年、友人と共に開発を進めている乗り味を作り出すため、シム組を多く試していますが、その友人はダンパー開発の現場に身を置く方なので、珍しいシム組で私を驚かせてくれました。
FKRはそれとは違う狙いだと推察しますが、これまでとは大きく異なったピストン形状に仕上がりが楽しみになりました。
カートリッジのロッドは8mmとかなり細く、これは摩擦抵抗の低減と共に減衰をしっかり発生させる狙いのはずです。ここまで細いカートリッジロッドは初めて見ましたので、面白いと思います。
オーリンズの良い点は部品製造の観点から読み解くと、設計者の望んだ通りに部品が作れる事です。反面、減衰の設定は極めてワンパターンだと感じています。レース用のカートリッジからストリート用までヴァリエーションが無く、違うのは減衰のヴォリューム(必要量)を満たしているかどうかで、あとは使う側が何とかするといった様相です。
一品一品その車両、時代に合わせてはないと思います。ですが、素材として考えれば高い素質を備えており、作り込む予算と時間の許す方にはかなり面白いため、サスペンションをしゃぶり尽くしたい方に勧めてゆこうと考えます。
早速取り付けを行ったお客様から、少々硬いので伸び圧ともに弱めたいと連絡を頂きました。早々に組み直して再度のテストを行います。