フェラーリ【360スパイダー】の前後ショックをO/H

 概要
 FerrariのショックをO/Hしました。

 車両は360スパイダーのZFSachsです。電子制御で完全分解への障壁は高いのですが、F430で得た経験を基に難なく作業が進みました。

 

 最初にまとめ
 フェラーリ純正の新品は一台分で100万円以上します。
 オーバーホールなら半額で済ませられますし、納期も一月なのでそれほど時間を要しません。

 課題としてはオーバーホールに回数制限があり、それを解消するのを目標に思案しております。

 作業概要

意外と難しいブッシュ外し。

 何はなくとも先ずはアッパーマウントのブッシュを外さなければ成りません。上の写真で分かる通りマウントの形状が独特で、その角度もしっかりと記録して基に戻す必要があります。

 一番最初に依頼があった際にはどうしたものかと逡巡したものですが、一度特殊工具を作れば後は継続使用できるため、今回もF430で作った特殊工具を利用して脱着を行いました。

 電制ショックに注意点

接点を間違う訳にはいきませんので、写真等でしっかりと記録しておきます。

 ブッシュと配線コネクタを片付ければ、やっとエンドアイを外す段になります。

 電子制御のショックは当然ながら配線が付き物です。オーリンズの様にショックユニットに直接取り外しできるカプラがあれば助かりますが、ザックスやマルゾッキは車体の奥に隠れています。

二輪車ですが、オーリンズのフロントフォークはこの様にしくみ。

 今回のザックスのように配線が飛び出している仕様の場合、部品の取り外し時にねじりで断線させてしまう事があります。

 実際に一度経験し、かなり際どい修理を行いました。その時は破断した箇所が何とか修理可能で助かりましたが、もっと奥まった箇所であればそうもいかず、高額な部品代を払う必要があったので冷や汗ものでした。

 そういった経験からも配線の処理にはかなり注意を払っています。

 ショック内部

ショック本体を分解。

 一気に飛ばしますが、ショックを分解しました。

 カシメ型の本体を分解すると電制の本丸とも言えるピストンと内部構造があらわになります。

 基本となる仕組みは旧来のツインチューブです。メインのピストン、ベースバルブにインナとアウタのシリンダー間をオイルが行き来して減衰を発生します。

 その一部を電制ユニットに通して減衰を可変させます。

 この手のツインチューブは基本構造が単純ですが、ザックスやビルシュタインの場合は注意を必要とする部分があります。

 ザックス、ビルシュタインにおけるロッドガイドの特殊性

ロッドを保持するロッドガイド。

 上のロッドガイドですが、かなり複雑なオイルの流れを作り出します。一般的に(ツインチューブにおける殆どの品)はロッドガイドが極めて簡単な作りをしており、精々オイル通路の確保のための切り欠きがある程度です。

当社で自作したロッドガイド。切り欠きを確認できます。

 それに比してザックスのロッドガイドはかなり複雑です。

写真中央の小さな溝。極めて細く浅い加工です。

 上の写真から確認できる小さな溝ですが、対して気にする必要もなさそうな小さな加工が、ショックの動きを大きく変化させます。

 以前にMaserati・222のショックをO/Hしましたがその時に同様の溝を発見し、その有無で動きが変化することを知りました。

 ですからこの複雑なロッドガイドを加工は出来ません。厳しい寸法制約の中で何とかO/Hを可能にするのは頭を悩ませますが、毎回の依頼で少しでも安価に早く出来ないかと思案し、今回もそれを達成できました。

 詳しい技法は述べませんが、これまでよりも加工の難易度が下がり制作が楽になるとともに、純正部品を壊す危険性が大幅に低下させています。

 オイル

純正オイルの色は赤。

 オイルも重要な要素です。粘度を間違えれば当然の如く発生する減衰力の強さが変わってしまうため、オイル粘度の確認が必須となります。

 当社はSachsのショックを何度も作業しており、把握しているのが強みです。

 ピストン形状

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 減衰を発生する要のピストン部分にはシムが乗っていません。通路面積を電子制御で変化させて動きを作り出しているようです。

 ただし車種によりここに追加部品を設け、減衰の微細な変化を持たせている物もあり、車両メーカーからの要望に対応しているようです。

 治具制作

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 オイルシールの挿入で不要な傷を着けないように治具を新たに造りました。材質は砲金です。アルミでも良いのですが、肉の薄い部分があり剛性面で少し不安があったからです。

 最後に
 この後、オイルの充填とカシメ作業を行いショック本体が完成します。しかしそこで気を抜くわけにはいかず、エンドアイとブッシュと取り付けも外すのと同様に細心の注意を要します。

 オイルシールは大幅な分解を行わなくても交換可能なしくみとして、微細なオイル漏れに対応しており、お客様の経済的負担を少しでも軽減できるように配慮しています。

 今回の記事はここまでです。

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