言葉の定義

 開発車両のCRM250AR・MD32のリアサスを分解しました。

 購入時点で他社でオーバーホールしていると聞いていたので、どの様になっているのか楽しみに分解しました。特徴として良く表れるのは、ロッドの先端でピストンやシムを締結するナットを純正ではカシメて、絶対にナットが緩まないようにしています。ここの削り方が作業者ごとにかなり違います。当社は生爪を成形してロッドに傷がつかないようにしながら、旋盤で削ります。再利用する場合には、削り代を最小にして綺麗な仕上がりを目指しています。この写真のオーバーホールをしたショップは、大きめの旋盤を持っているとホームページでは謳っていますが、ナットの頭はグラインダで削るようです。そのままでは汚らしいので、手間をかけ研磨してありました。

 次の特徴は、細かく伝えると自社の技術を公表することになる為、細部までは申し上げられませんが、組み立て手順により大きく変わってしまう部分があり、そこに関しては、深い考察の無い組み方でした。私自身も会社を始めて一年程度は同様の方法で組み立てていましたが、疑念を持ち違った手法に切り替えたところ、かなり乗り味が向上したので、現在は基本的に新たな方法を継続しています。

 続いてはスプリングのアジャストリングナットを緩める際に分かる事ですが、グリスが塗布されていませんでした。オフロード車両の場合は特に汚れが付着しやすくなるので、ここは意見の割れる点ですが、当社としては最低限は塗るようにしています。アルミと鉄が擦れ合うのでそのままでは摩耗が心配だからです。

 ブラダでオイルとガスを分離する構造上、オーバーホール後半年以上たっている点と乗った感触を考慮すると、オイル室に混入した気体の具合は写真の程度なら、少々多めに思えます。

 アッパーマウントのベアリングは、スリーブ、ダストシール、ベアリング共に再使用されていました。この会社のホームページを見たところ、該当箇所は交換を望む場合、申請してくださいとありました。当社の場合は、部品設定がある、または交換可能な場合は見積もりに載せています。

  結論を明記するのはあえて避けるとします。ただ、言葉の定義をしっかりしなければ、お客様は勘違いします。フルオーバーホールと銘打ち、交換部品の多さや作業の丁寧さ、機材の充実を強調しながらそれを扱うのは結局人間であり、作業者の技術水準に大きく左右されます。

 当社の問題点は、オーバーホールとあるだけで、どの程度の交換部品がどのような技術で組まれているかを明示していない点かもしれません。皮肉で言うのではなく、アピール上手なのは素晴らしいと思うので、見習います。

 オーバーホール後の印象ですが、動きが滑らかになったと同時に減衰が効いて、サスペンションが荷重に応じてしっかり留まるようになりました。やはり空気の混入する量が増えると、落ち着かないようです。それに合わせライディングのリズムも狂います。何だかおかしいと感じたら操縦技術でなく、サスペンションやタイア、車両に何らかの落ち度があるかもしれません。定期的な整備の重要性を再認識しました。

 今回は辛口過ぎたかもしれません。他社批判は良くないと理解しているつもりですが、見たままを伝えるとこうなってしまいます。つまりは自分もしっかり作業しようと、自戒の意味も込めました。

 

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