56レーシングのライダー育成について

 56レーシングと一緒にレースを戦う意義は、監督が話す様に世界で通用するレーサーを育てたい。その場を通して私自身も色々と吸収したいとの思いからです。

 その一方で監督とそのお父さんが常々おっしゃっているのは、人間教育です。単に走るのが速いライダーに育てれば良いのではなく、社会人として一人の人間として立派な人格に育てば、レースを離れた後でも、社会で、世界で、通用する人材になる。そう話しています。

 前回のレースは全日本併催のCBRカップを二人のライダーが参戦しました。田中選手は初日の走行で転倒し、脳震盪により出場できませんでした。

 もう一人のライダー、梶山選手はチャンピオンシップがかかったレースに緊張しながらも、自信を持っている様に見えました。練習走行、予選へと少しづつタイムも詰めて決勝は優勝を狙っていたはずです。しかし、レースが始まり一周目を終える頃にマシントラブルでリタイアになりました。

 すぐにティームテントを尋ねましたが、お通夜よりも沈んだ空気に、かける言葉もありません。周りにいた人たちに状況を尋ね、リタイアの原因を知りましたが、梶山選手はトランポの中で苛立ちと悔しさが入り混じり、泣いていたそうです。
 そんな時間が15〜20分続いた後、親御さんに促され梶山選手が表に出てきました。皆の前で「誰も悪くありません。応援して頂いた皆さん、ありがとうございます」と状況を受け入れ、挨拶をしました。

 野球の野村監督が度々「野球選手を引退した後の方が人生は長い。だから社会人としてしっかり選手を教育しなければならない」と話されています。今回の梶山選手も全く同じ状況だと感じました。
 悔しい気持ちはあって当然ですが、そこで気丈に振る舞うのは大人としての礼儀です。

 私はレーシングティームの雰囲気は監督ではなく、ライダーが作る(醸し出す、または醸成するとも表現できる)物だと思います。だからこそ、ティームが沈んでいたり雰囲気の悪い時こそ、ライダー自らそれを打破しなければなりません。
 若い梶山さんは自身の置かれた状況において、最大限の事をしてのけたと思います。これはつまり、56レーシングのライダー育成が狙い通り進んだ結果なのです。

 トラブルが発生し、それによりライダーが抱えた苦悩は監督以下、ティーム一丸となり対処しなければならないでしょうが、期せずしてライダーの成長を強く実感させられました。

 以上はティームから一歩離れたて観た、私の感想です。監督も当然ですが、メカニックの3名は本当に苦しいはずです。これにめげる様な構成員ではないと知っていますので、次回のNGK杯では万全の状態でレースに挑めると信じています。